【ディスクレビュー】ボン・ジョヴィのアルバム『夜明けのランナウェイ』を聴いてわかったこと【全曲解説】
今年デビュー40周年を迎えるボン・ジョヴィ。
日本でも、なかやまきんに君のネタの中で、楽曲 “It’s My Life” が使用されミーム化。
アサヒ飲料の「颯」のCMでは “Living on a Prayer” の替え歌が使用されたり、ディズニープラスで彼らのドキュメンタリーが配信されたり最近何かと話題になっている。
そして今回レビューするのは、そんな彼らの記念すべきデビュー・アルバム『夜明けのランナウェイ』(Bon Jovi)だ。
この記事は、ボン・ジョヴィをはじめから聴きたい人向けの内容となっている。
感覚や感性の話ではあるが、これから聴く人へ参考になれば幸いだ。
- 初見ならではの素のレビュー&考察
- 全曲解説&おすすめ度合い(★5段階評価)
- アルバムの歴史・解説
- ベスト盤でしか聴いたことのない人
- これからボン・ジョヴィを聞きたい人
- 洋楽をとことん楽しみたい方
2ndアルバム『7800°ファーレンハイト』のレビューは【ディスクレビュー】ボン・ジョヴィのアルバム『7800°ファーレンハイト』を聴いてわかったこと【全曲解説】で解説している。
『夜明けのランナウェイ』全曲レビュー/おすすめ度(★5段評価)
収録曲 | 収録時間 | おすすめ度・評価(★5段階) | |
1 | Runaway | 3:50 | ★★★★★ |
2 | Roulette | 4:38 | ★★★★☆ |
3 | She Don’t Know Me | 3:58 | ★★★★★ |
4 | Shot Through the Heart | 4:16 | ★★☆☆☆ |
5 | Love Lies | 4:06 | ★☆☆☆☆ |
6 | Breakout | 5:20 | ★★★★☆ |
7 | Burning for Love | 3:51 | ★★★★★ |
8 | Come Back | 3:56 | ★☆☆☆☆ |
9 | Get Ready | 4:07 | ★★★★★ |
1. Runaway
スタッカートの効いた印象的なキーボードで始まるのは、ボン・ジョヴィのデビュー曲だ。
甘い歌声からは初々しさを感じる。
のちにビッグスターになるとは、まだ誰も思っていなかっただろう。
2:15から始まるギター・ソロがまた良く、後半では、7段階にもわたる音程の変化が楽しめる。
28秒間弾かれたギター・ソロの後は、再びヴァースからコーラスへ。
3:21から曲がフェードアウトするまで、ハイトーン・ヴォイスに変化するボン・ジョヴィの歌声を拝むことができる。
終始緊張感が漂うこの曲のテーマは、「価値観」「自由」だ。
主人公の少女は、自分自身の生き方がわかっている。
ストリートに出ても、誰も私の声に耳を傾けない。父親の言うこともお見通し。私のことを知りたいなら、私の目を見なさい。全てを語っているから。
歌の後半では、ブロードウェイのネオンサインを見つける。照明に当たるのが好きな彼女は舞台に立つのが夢なのかもしれない。
“Runaway”つまり*「家出少女」と題したこの曲は、当時のアメリカ社会を反映していると考えられる。
ボン・ジョヴィが結成されたニュージャージー州では、彼らのデビューした1984年に州警察で「The Missing Persons Unit」という行方不明者を扱う課が設立されている。
【参考】Missing Persons Unit/New Jersey State Police
* “She’s a little runaway”という歌詞から少女とわかる
2. Roulette
「1,2,3,4」とジョンの掛け声でリズムギターが始まる。
ダークな印象があるが、所々に高音域のシンセサイザーが入ることで中和されており、曲に強弱が出ている。
2:38に、ジョンのハイトーンの声が披露されるのだが、結構キツそうな印象。
コーラスで “Roulette” と歌うところがあるのだが、のちの名曲「Wanted Dead Or Alive」の “Wanted~” のパートにすごく似ている。
というか原型はここにあったのかー!
ここは聞きどころだぞ!
3:00から33秒間にわたって続くギターソロは非常にシンプル。
控えめなアーミングやピッキング・ハーモニクス、チョーキングをして、最後に高速のアルペジオを弾く。ギターテクニックは最高だが、正直ワイルドさはまだ感じられない。
「Roulette」(ルーレット)は人生という大きなテーマをギャンブルに例えた歌だ。
例えば、「賭けたのは黒だが、当たりは赤」という歌詞からもわかる。
そして「ゲームをし続けるんだ」と締め括る歌詞は、バンドで生きていくんだという意志を感じることができる。
それは、この曲が「ジョン・ボン・ジョヴィとリッチー・サンボラ」によって書かれた最初の曲であるところからも納得であろう。
3. She Don’t Know Me
ボン・ジョヴィが放つ最初のロック・バラード曲。
アコースティック・ギターとシンセサイザーが空間を包み込み、ノスタルジックな気分になる。
なんと言ってもコーラス部分の “She Don’t Know Me”と歌うところは、リズムもゆっくりで、英語も聞き取りやすいので歌いやすい。
2:38から “Ahh~”と耳元から遠くへ抜けていくハーモニーを聞くことができるのだが、どこかクイーンを彷彿させる音作りをしている。
さらに2:56から始まるギターパートは、ジャーニーの「Don’t Stop Believin’」と全く同じ演奏を流用している。
いやオマージュと言っておこう。
非常に耳心地がいい楽曲だ。
この曲を作曲したのは、マーク・アヴセック(Mark Avsec)。
Wild Cherryというファンク系のバンドにいた人物だ。
曲は、元々 “La Flavour” というバンドのために作ったのだが、ディスコ音楽へ方向転換するにあたってお蔵入りすることになった。
1982年に、”The Grass Roots” や “Peter Emmett” がアルバムに収録。
1984年にボン・ジョヴィがリリースする時には、オリジナル曲ではなく、カバー曲としての扱いになってしまった。
背景には、”La Flavour” と同じポリグラムというレコード会社の傘下にいて、デビューを控えたボン・ジョヴィのデビュー・アルバムの曲数が足りなかったから収録したという話もある。
曲のタイトル「She Don’t Know Me」に違和感を感じる人は感が鋭い。
実はこれ、文法的に間違っている。
本来であれば、「She Doesn’t Know Me」とならなくてはいけないのだが、あえて変更されている。
ENGLISH JOURNALの記事によれば、こういった言い回しはアフリカ系アメリカ人がするものだそう。
彼らの英語を真似することが「カッコいい」と感じたロック歌手が、ロックの元になった黒人労働歌やブルースの英語の「カッコよさ」に加え、「歌いやすさ」や「メロディにのりやすい」という理由で文法とは違う表現をするようになったという背景がある。
ちなみに、このことを「Ebonics」と言うそうだ。
【参考】“She doesn’t know me.”ではなく“She don’t know me.”と言う理由【イージー英会話表現】
4. Shot Through the Heart
一曲目の「Runaway」を彷彿とさせるピアノは、某サスペンス劇場のオープニングのように緊張感を漂わせる。
ギター・ソロは ”アイアン・メイデン”に影響されたのか、NWOBHM(ニュー・ウェーブ・オブ・ブリティッシュ・ヘヴィー・メタル)の影が見える。
“Shot Through the Heart”という曲名。
感のいい人ならわかるが、のちにボン・ジョヴィがリリースする楽曲「禁じられた愛」(You Give Love A Bad Name)の冒頭を含むコーラス部分で歌われる歌詞の一部だ。
この歌は、失恋によって生じた諦めや絶望を歌っている。
ところどころに終わりを意味する隠語があり、「カーテンコールの時間」「ハートをぶち抜き、俺は道に横たわる」など、まるで舞台をみているかのような歌詞が展開されている。
ピアノで心の動揺を表し、ギター・ソロはまるで絶望の淵に立たされた男の叫び声のように、様々なテクニックで表現されているのも聞きどころだ。
5. Love Lies
前曲「Shot Through the Heart」と合わせて聴きたい一曲。
「Shot Through the Heart」が動であるならば、「Love Lies」は静だ。
「Love Lies 」訳すと「愛の嘘」となるこの楽曲は、女に振られた男の失恋ソングだ。
振られるけど、彼女の顔を思い出すたび、彼女を探しに街へ出かけて行ってしまう。
そして2人は再会するが、主人公の男は、またハートを打ち抜かれ、自ら◯をたつという結末だ。
この楽曲でもギター・ソロは、”アイアンメイデン” 感が強く、2:53から3秒間続くところ特にそう感じる。
ただ、まだボン・ジョヴィの良さは出ていない。
6. Breakout
「ウォー、オーオーオー、ウォー、オーオーオー」と、『ビーストウォーズ』が始まるのかと思わせるような、男たちの雄叫びから始まる。
ただそこには、控えめではあるが、ギラついたジョンの声が前へ前へと押し出してくる。
曲の内容はというと、これまた恋愛ものだ。
「女は求めるが男はそうではない」という、今までの楽曲とは真逆の立場で展開される楽曲だ。
「偽りの愛からの脱出」をテーマに、「Breakout」と力強く歌われているのも注目だ。
作曲したのは、「Love Lies」に続き、ジョンとキーボードのデヴィッド・ラッシュバウム(現在:デヴィッド・ブライアン)の2人。
キーボーディストが共作でいるのもあって、この2曲は、どちらもシンセサイザーがよく目立つ楽曲だ。
また、ジョンのシャウトから始まるリッチーのギター・ソロは、彼らしさが1番出ている。
彼らの未来を知っている我々からすると、そのプレイからリッチーらしい伸び伸びさが感じられるだろう。
7. Burning For Love
ライトなヘヴィ・ロックな曲調とスピード感がボン・ジョヴィらしさを全面に出している。
それもその通りだろう、なぜなら愛に燃える男のストーリーが歌われているからだ。
2:12からの26秒にわたって弾かれるギター・ソロは、あまりクールさは無いものの、強弱がついておりリスナーを惹きつけるので、どういう展開になるのか気になって仕方がない。
そして何よりも注目なのは、ドラムだ。
アルバムの中で1番ドラムが目立つのは間違いない。
ボーカルとギターも、ティコ・トーレスのドラムがなければ、ここまでスピードを感じることもできないし、「Burning For Love」(愛に燃える)というドキドキの感情も表現することはできなかっただろう。
8. Come Back
正直「Burning For Love」の二番煎じみたいな曲。
それはこの曲順からも分かるし、テンポ感とかジョンのボーカルの質からもそう感じざるを得ない。
ギター・ソロにとって代わり、初めてデヴィッドのキーボード・ソロが全面に出て展開され嬉しい反面、ボン・ジョヴィの持つワイルドさが無いのが残念な一曲。
歌詞の内容も、「Come Back 戻ってきてくれ、お前の愛が欲しいんだ」という失恋した男の愛の欲望が歌われているし、曲調と合わないのも惜しい点だ。
9. Get Ready
8ビートのザ・ロックンロール・ナンバーだ。
第一印象としては、「これは一曲目でもいいんじゃね」と感想を抱く。
ただ、最後に持ってくるのにはビジネス的な理由があると思う。
言ってしまえば、「終わりよければすべてよし」ってやつ。
この曲を聴いていると、不思議と「なんかすげー良いアルバムを聴いた」という感覚に陥る。
なぜかと言うと、8ビートで爽快感があり、メンバー全員の演奏が輝いていて、曲のタイトルも「Get Ready」(準備はいいか)とリスナーに問いかけているからだ。
歌の内容も「大人のように振る舞う17歳のティーン・エイジャーが、お互いの手をとりあって、今夜は踊りつくそう」と愉快で爽快な内容だ。
「Get Ready」は男女の最高の瞬間を描いた恋愛もの。
そこに登場するのは17歳のティーンエイジャーだ。
作曲したジョンとリッチーのことを考えると、彼らが高校生の時は、1979年と1976年だ。(17歳と仮定して)
当時の音楽シーンを考えると、やはりディスコだろう。
ドナ・サマーやビー・ジーズが有名で、映画『サタデー・ナイト・フィーバー』では俳優ジョン・トラボルタを一躍トップ・スターに押し上げた音楽ジャンルだ。
特にダンスホールではダンス・バトルなんかも行われていた愉快な時代。
そのような時代に、ティーンエイジャーを過ごしたジョンとリッチーの体験談や妄想を描いた曲ではないのかと考察できる。
事実、ジョンと彼の妻ドロシーは高校時代に出会っている。
ちなみにニュージャージー州の「Sayreville War Memorial High School」という高校だ。
【参考】Jon Bon Jovi and Dorothea Bongiovi’s Relationship Timeline
アルバム『夜明けのランナウェイ』の歴史・解説
1984年にリリースされた『夜明けのランナウェイ』は、ボン・ジョヴィのデビューアルバムだ。
【解説】『夜明けのランナウェイ』ができるまで
【出典】Bon Jovi (@bonjovi) Instagramより
さて「ボン・ジョヴィ」の始まりは、ボーカルのジョン・ボン・ジョヴィとキーボードのデヴィッド・ラッシュバウム(現在のデヴィッド・ブライアン)が出会うところから始まる。
彼らは高校時代に「アトランティック・シティ・エクスプレスウェイ」(Atlantic City Expressway)と言うバンドで活動を始めるのだが、1980年にジョンが脱退。
その後、ジョンは靴屋でバイトをするという生活をしていたのだが、幸運なことに彼の従兄であるトニー・ボン・ジョヴィが経営するニューヨークの有名音楽スタジオ『パワー・ステーション』で雑用として仕事を始めるようになる。
そこは、ミック・ジャガーをはじめ大物が日々レコーディングしに来るスタジオだった。
パワー・ステーションでレコーディングした曲を集めたアルバムも出ているよ。
空いた時間にレコーディングをすることを許され「アトランティック・シティ・エクスプレスウェイ」(Atlantic City Expressway)のメンバーたちと新バンド「ザ・ワイルド・ワンズ」(Jon Bongiovi & The Wild Ones)を結成。
【出典】Jon Bon Jovi (@jonbonjovi) Instagramより
他にもセッション・バンド「ジ・オールスター・レヴュー」(The All Star Review)でデモテープを作成するようになる。
デビュー・アルバムをよく調べると1984年以前のクレジットには、1982年、1983年と書かれているけど、なんで?
このバンドでレコーディングをしていからだよ、例えば1曲目の「Runaway」とかね。
ちなみにメンバーは以下の通り、
名前 | 担当 |
ティム・ピアーズ (Tim Pierce) | ギター |
ロイ・ビッタン (Roy Bittan) | キーボード |
フランキー・ラ・ロッカ (Frankie La Rocka) | ドラム |
ヒュー・マクドナルド (Huey McDonald) | ベース |
ジョン・ボン・ジョヴィ (John Bongiovi) | リード・ボーカル |
ジョン・ボン・ジョヴィ (John Bongiovi) | バック・ボーカル |
デヴィッド・グラハム (David Grahmme) | |
ミック・スティーリー (Mick Steeley) |
ヒュー・マクドナルドは、現在でもサポートメンバーで活躍しているよ。
ニューヨークのラジオ局が主催するコンテストで「Runaway」が流れ、知名度を増していった。
すでに「ザ・ワイルド・ワンズ」(Jon Bongiovi & The Wild Ones)には、ベースのアレック・ジョン・サッチ、音楽経験豊富なドラムのティコ・トーレスが加わっており、ライブをしていた。
そんな彼らのライブを観ていたギターのリッチー・サンボラだ。
彼はライブ後に楽屋に殴り込みに行き「俺がこのバンドのギタリストになってやる」と強気な発言。
事実、彼の腕はピカイチであった。
彼が参加しバンド名を「ボン・ジョヴィ」に改名。
自費出版で出したシングル「Runaway」の噂を耳にしたレコード会社「ポリグラム」が目をつけ、その後レコード契約。
満を辞してリリースしたのが、この『夜明けのランナウェイ』なのだ。
まとめ:『夜明けのランナウェイ』を全曲解説してみて分かったこと
【出典】Bon Jovi (@bonjovi) Instagramより
今のボン・ジョヴィを聞くとすでに答えは出ているが、正直デビュー作は、バンドとしての良さが確立できていない。
それは、サウンド面でも作風やアレンジの仕方でわかる。
またアルバム全9曲のうち、カバーが1曲、2曲はジョンとデヴィッド、4曲が、ジョンとリッチーの共作だ。
カバー曲以外は、全てジョンが関わっており、ソングライターとしての才能を発揮している。
やはり数々のバンドを経験してきたからであろう。
アルバムは全体を通して「恋愛」や「人生」をテーマにしたもので構成されている作品に仕上がっている。
例えば、
2曲目の「Roulette」は人生を賭けてロックをすると言うもの。
7,8曲目の「Burning For Love」と「Come Back」は燃える愛と失恋。
ただその奥には、ボン・ジョヴィと言うバンドが、これからどんどん活躍していくから見ていろよと裏のメッセージが隠れている曲もある。
アルバムのラストを飾る「Get Ready」は、ティーンエイジャーの恋愛を歌った曲であるが、「Get Ready」(準備はいいか)と強いメッセージを残している。
次回作を期待させるビジネス的戦略だ、クイーンが1stアルバム『戦慄の王女』の最後で「輝ける七つの海」を収録させたのと同じだ。
ワイルドさを次回作に期待したいものだ。
ぜひみなさんの感想やボン・ジョヴィ愛、思い出など、お気軽にコメントを残していってほしい。
このように当ブログでは日々洋楽の魅力を発信している。
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それでは、これからも洋楽を楽しみましょう!
SEE YOU NEXT WEDNESDAY!!