【ディスクレビュー】クイーンのアルバム『戦慄の王女』を聴いてみて分かったこと【全曲解説】
洋楽を小6から追っている私ではあるが、実はクイーンはベスト盤でしか聞いたことがない。
2018年の映画『ボヘミアン・ラプソディ』をはじめ、2月のクイーン+アダム・ランバートの来日公演に行ってから居ても立っても居られなく、1からクイーン体験をしたくなったのだ。
そこで今回からアルバムのレビューをしていこうと思う。
クイーンの1発目はもちろんデビューアルバム『戦慄の王女』だ!
クイーンをはじめから聴きたいという人向けの内容となっている。感覚や感性の話ではあるが、これから聴く人へ参考になればいいと思っている。
- 初見ならではの素のレビュー&考察
- ベスト盤でしか聴いたことのない人
- 全曲解説&おすすめ度合い(★5段階評価)
- アルバムの歴史
- これからクイーンを聞きたい人
- 洋楽をとことん楽しみたい方
『戦慄の王女』全曲レビュー/おすすめ度(★5段評価)
収録曲 | 収録時間 | おすすめ度(5段階) | |
1 | Keep Yourself Alive | 3:47 | ★★★★★ |
2 | Doing All Right | 4:09 | ★★★★☆ |
3 | Great King Rat | 5:43 | ★☆☆☆☆ |
4 | My Fairly King | 4:08 | ★☆☆☆☆ |
5 | Liar | 6:25 | ★★★☆☆ |
6 | The Night Comes Down | 4:23 | ★★★★☆ |
7 | Modern Times Rock ‘N’ Roll | 1:48 | ★★★☆☆ |
8 | Son And Daughter | 3:20 | ★★☆☆☆ |
9 | Jesus | 3:44 | ★★☆☆☆ |
10 | Seven Seas of Rhye | 1:15 | ★★★★☆ |
1. Keep Yourself Alive
【出典】Queen (@officialqueenmusic) Instagramより
「ジュコ、ジャンジャカ、ジャンジャカ、ジャンジャカ、ジャンジャカ」とLチャンから聞こえるギター、その後Rチャンからも聞こえてきて和音となる。
おおいいぞ、いいぞ、ドラムにベースが加わる。
ここまで35秒の伴奏。
ギターの音色が美しいロックンロール・ナンバーだ。
2:38からのバイオリンのようなブライアン・メイのギターの七変化は必聴、3:14からも同じフレーズが繰り返されてクラシック音楽のように音の厚みがある。
ちなみに邦題は「炎のロックンロール」。
自分自身の魂を燃やせという意味を考えれば、曲のテーマとは合っているかな。
あながち間違いではない。
印象的なオープニングのギターリフはのちにアメリカのバンドハートが1977年の楽曲「Barracuda(バラクーダ)」で似たリフを演奏しているよ。
しっかりロックのDNAを受け継がれているな!
歌詞から伝わるのは「お前自身を生かせ!」という強いメッセージだ。
「時間と金をうまく使えば、生きていけるし満足させろ」というコーラス部分は、現代に生きる我々にも響くものがある。
Aメロで歌われる歌詞の中で”I sold a millon mirrors”と歌われている部分は体験談を元にしていると考察できる。
というのもフレディ・マーキュリーとロジャー・テイラーの2人はケンジントン・マーケットでお店を開き、古い絹のスカーフを売ったり自分たちのアート作品を売っていたからだ。
またフレディが私物で着ていたものをロジャーに売られ、慌てて取り戻したという面白エピソードもある。
2. Doing All Right
イギリスのバンドなのに頭の中に浮かんでくるのは、西日に照らされる荒野の一本道をオープンカーで走る情景だ。
1日の終わりに聴きたくなるな
アコースティックギターの演奏や重なるハーモニーから60年代末のアメリカの音楽の要素を感じ取れる。
2:06からはハードロックに変化。
そこから再びフォークやカントリーのような雰囲気に戻るのを繰り返す。
「自分の力でうまくやっていけるよ」というこの曲のメッセージは、一曲目の「Keep Yourself Alive(炎のロックンロール)」とセットで聞くとなお良い。
この曲でピアノを弾いているのはブライアン・メイなんだよ
特に曲の終わりのハーモニーになのだが、どこかで聴いたことあると思ったら、1976年のスターランド・ヴォーカルバンド(Starland Vocal Group)のアフタヌーン・ディライト(Afternoon Delight)を思い出させた。
この曲の終わりでも3音域にわたるハーモニーが素晴らしいのだ。
クイーンのほうが先だけどこういったところで継承されているのが面白い。
オリジナル曲はクイーン結成前の「スマイル」というバンドの曲。
曲名も「Doin’ Alright」という表記であった。
3. Great King Rat
6ペンスのコインと弦の2つの金属がぶつかるガリガリ音で幕を開ける。
この前ライブで聞いた「We Will Rock You」のオープニングのようなサウンドだ。
最初の2曲と比べるとだいぶ難しいが「パカラッ、パカラッ」っと馬が駆けるようなリズムが印象的な曲。
「ワォワォ」と水中で声を出すようなワウの効いたギターがところどころ荒々しく演奏され、後半にタンバリンとドラムがギターソロを支える。
3:55からのサンバのようなキレのあるリズムからも色々な音楽の影響を受けている面白い曲ではある。
しかし正直歌詞がパッとしない。ラットという王様が死んだという内容だしよく分からない。
King Ratというのは”Grand Order Of Water Rats”というイギリスの芸能興行関係者の友愛団体・慈善団体の会長のことを示しているそうだ。
またブライアン・メイもこの団体のメンバーのひとり。Blue Collar Ratという称号がついている。
【参考】『クイーン全曲ガイド』著・石川隆行(シンコーミュージック・エンタテイメント・2019年)
【参考サイト】Grand Order of Water Rats
歌詞の中で5月21日生まれたKing Ratは44回目の誕生日に死んだと続く。
調べたところ44歳で亡くなったのはダン・レノというヴィクトリア朝時代の喜劇俳優。
彼は第2代、第3代、第8代のKing Ratを勤めていた人物である。
しかし5月21日に生まれたという事実はなく真相は闇の中だ。
ちなみにイギリスで5月21日に起きた出来事を調べると、ヘンリー6世がロンドン塔に幽閉され亡くなった日付ということが分かった。(5月22日という説もあり)
【参考サイト】Grand Order of Water Rats
4. My Fairly King
イントロで聞こえるギターのフィードバックはヨハン・シュトラウス2世の作曲したウインナ・ワルツ『春の声』の冒頭部分ととそっくりだ。
いやオマージュといったほうが良いだろう。
ピアノの伴奏から入ると「アアアァァァー」っとロジャー・テイラーの高音域の声が雷のように聞こえてくる。
超絶な声だ。
そしてホールで聴いているような反響音があり広がりを感じる。
とにかくハーモニーが最高だ。
1:22から再びロジャーの高い声が鳴り響く。
ヘッドホンで聴いていると結構衝撃的だ。
いやいやこれがクイーン?なのだ。
歌詞はファンタジー作品みたいな内容で良いけど、曲調はロックではないな。物足りない。
3:00から始まるブライアンのギターから伴奏が早くなる。ドラムとピアノが合わさり駆け足になるものの、最後はゆったりとバイオリンのような音で閉める。
歌詞の中に「母なるマーキュリー」(”Mother Mercury”)と歌われる箇所があるのだが、のちにファルーク・バルサラからフレディ・マーキュリーと改名する時に引用されたという説がある。
5. Liar
ハードロック要素が出だしからプンプン漂ってくる楽曲だ。
1分25秒という尺をたんまり使いイントロから図太いギターサウンドを繰り広げる。
フレディの演奏するハモンド・オルガンが重なることで音と音のつながりを作り出している。
「Liar」と聴く人をはじめから終わりまで印象付けさせるトリックがなんとも言えん。
“Liar”と歌う箇所は強弱があるのもそうだけど、ひとつひとつ個性があるよな。
4:22からテンポが変わり、民族音楽が取り入れられている。
また”Mama I’m Gonna Be Your Slave”と、このときに歌われる。
この点からも大昔の奴隷制の要素を感じさせるのだ。
他にも歌詞からは「ボヘミアン・ラプソディ」と同じように、罪を犯した人間が許しをこうという宗教的な内容が濃い。
後半のブライアンの伴奏につられるように出てくるジョン・ディーコンのベースがカッコ良い。
鼓膜までその太い音が届いてくるのだ。
元々は「Lover」っていう曲だったそうだよ
歌詞の中に”Liar from Mars to Mercury”(嘘つき 火星から水星へと)という箇所があるのだが、これはデヴィッド・ボウイからフレディ・マーキュリーという意味を表しているだろう。
2人ともイギリスの歌手で、デヴィッドは火星からやってきたロックスターを演じた。
そしてフレディも名前をマーキュリー(水星)に変えている。
化粧をしてラメのついた衣装を身にまとうグラム・ロックからクイーンへと受け継がれているとも捉えられる。
6. The Night Comes Down
複雑なリズムで繰り返されるアコースティック・ギターとベースが同じフレーズからフレディの歌声へと展開する。
ゾクゾクと緊張感のある様子から一転、朝日が当たり温もりを感じるような明るい曲調へと変化する。
歌詞の中に”Lucy was high…”というところはビートルズの「Lucy in the sky with diamonds」に登場するルーシーだろう。
日本語の和訳を見てもこの箇所は訳されていない。
Highは空の上(in the Sky)と気分がハイになっているという2つの意味を考えることができる。
come downとは「〜を降ろす、〜が壊れる、効き目が切れる(薄まる)」という意味があるのだが、この歌の場合は「夜が明ける」と意訳したほうがしっくりくるだろう。
そして「夜が明ける」というのは「我に戻る」という意味の隠語であるだろう。
歌詞はLSDによる幻覚状態を描いている。
確かに「世界はすべて灰色だ」、「道を見失うのが怖い」という歌詞から自分の視界がおかしくなり我を失いそうになる状況を表現している。
7. Modern Times Rock ‘N’ Roll
やはりこの曲もレッド・ツェッぺリン要素がところどころ感じる。
冒頭の駆け足な感じも、レッド・ツェッぺリンの “Rock and Roll” にインスパイアされているのがわかる。
そしてこの曲名には “Modern Times”(現代の/モダンな)を付け足している。
つまりクイーンが求めるロックンロールとはこういうことだと表現した一曲だ。
ロック感全開のこの曲は、本作『戦慄の王女』で唯一ロジャーがメイン・ボーカルを勤めている。
曲の最後に「Look Out!!」と聞き馴染みのない声が聞こえるんだけど、これはエンジニアのジョン・アンソニーの声だよ。
8. Son And Daughter
この曲にもどこかレッド・ツェッペリンを感じさせるヘヴィーなサウンドがある。
ロジャーの声もあるがフレディが喉の奥から太い声を出しているのもある。
2:19〜2:26の「I want you to be a woman」と歌う箇所は完全にレッド・ツェッペリンの “Whole Lotta Love” だろ。
ベースのジョン・ディーコンがクイーンのオーディションの際に弾いたのがこの曲。
9. Jesus
「ジャン、ジャン、ジャー、ジャン」と単調な伴奏で始まる。
後半の伴奏は60年代のサイケデリックなサウンドが楽しめる。
特にブライアンのギターから奏でられるファズ(Fuzz)のサウンドは荒々しくて、どこか怪しい感じが聞いていてゾクっとする。
なんとも言えん。
それから、3:08と3:12のギター・アルペジオが聴いていて気持ち良い。
ブライアンの指ずかいすら想像できそうで、どこかクラシック音楽を聴いているような気さえする。
新約聖書が歌のもとになってる。歌詞には「3人の賢者がベツレへムにやってきた」とある。
これはマタイによる福音書の2章に書かれている内容で、イエス・キリストの誕生を告げる星が見えたため、はるか東バビロニアから占星術師の学者たち(東方三博士)が挨拶にやってきたというものだ。
東方三博士は「カスパール」「バルタザール」「メルキオール」の3人と言われているが実際の人数は不明である。
クリスマスツリーの上にある星がベツレヘムの星である。
10. Seven Seas of Rhye
インストルメンタルで1分15秒と短い曲だが、最初のピアノの伴奏で一気に飲み込まれてしまった。うん、多分これは名曲に違いない。
ピアノの伴奏から始まり壮大な世界に広がっていく、ファンタジー物語がこれから始まると言わんばかりの印象だ。
邦題は「輝ける7つの海」
アルバム『戦慄の王女』の歴史・解説
アルバム『戦慄の王女』は1973年に発表されたクイーンの記念すべきデビュー・アルバムだ。
解説
On this day in 1973, Queen release their debut studio album. pic.twitter.com/88F5iy48RH
— Monsters Of Rock® (@MonstersOfRock) July 13, 2018
【出典】Monsters Of Rock® (@MonstersOfRock) Xより
クイーンの母体となるバンド「スマイル」からボーカリストが抜けたところに、ファンであったフレディ・マーキュリーが新ボーカリストとして参加。
彼はバンド名を「クイーン」と改める。オーディションで最後にベーシストのジョン・ディーコンが加入しクイーンが結成される。
詳しいクイーンのバンド解説は【入門解説】クイーン〜イギリスからやってきたロックの貴公子〜【2024年来日特集】を参考にしてもらうと理解が深まるだろう。
ひょんなことから、クイーンはレコーディング・スタジオのデモンストレーション・バンドとして機材テストをするチャンスを得る。
そこで早速デモテープの制作に取り掛かったのだ。
その後ロンドンの「トライデント」というマネジメント会社と契約。
ジョン・アンソニー(John Anthony)とロイ・ベイカー(Roy Baker)という2人のプロデューサーの下でアルバム制作に取りかかる。
スタジオでは24トラックのレコーダーを駆使して多重録音を取り入れ音に厚みと奥行きを作り出した。
また同スタジオでは、大物ミュージシャンも出入りするため、空き時間で地道に制作を続けていった。
そして、1973年7月13日に満を辞して発表したのが『戦慄の王女』だ。
レコードの裏面にはこう書かれていた。
nobody played synthesizer
(誰もシンセサイザーを演奏していません)
またアルバムのカバー・デザインは写真家のダグラス・プディフット(Douglas Puddifoot)が撮影したもので、フレディがデザインしたロゴが描かれている。
まとめ:『戦慄の王女』を全曲解説してみて
初めてアルバム単位でクイーンを聞いてみたのだが、正直難しいという第一印象だ。
ロックと一言でまとめることができない。
これは、フレディがインド音楽などに影響を受けているのも要因の一つだろうし、クラシック音楽やワルツ、プログレッシヴ・ロックのような実験的なロックジャンルが混ざっているからであろう。
それにしても70年代のハードロック全盛期に出てきたとは面白い。
クイーンとはまさに、そんな時代に彗星の如く現れたバンドだ。
いや〜、次回作がどのように進化していくのか気になってしまう。
このように洋楽のアルバムのレビューなど洋楽の魅力を発信していくので、気になる方はチェックをしてもらえると幸いだ。
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それでは洋楽を楽しみましょう!
SEE YOU NEXT WEDNESDAY!