【ディスクレビュー】なぜグリーン・デイの『Dookie』は名盤と言われるのか?全曲聴いてわかったことを解説【全曲解説】
15年ぶりの単独来日公演が決定したグリーン・デイ。
私自身も小学生〜中学生の頃に聴いていた懐かしいバンドなのだが、実はちゃんとアルバムをちゃんと聞いたことがない。(iPodで音楽を聴いていた世代なので…)
今回は彼らの名盤であり、メジャー・デビュー・アルバムである『ドゥーキー』(Dookie) を徹底的にレビュー&解説していきたいと思う。
レビュー内容(評価)は感性、感覚の話になるので、あくまで個人の意見としてとらえていただきたい。
またこのディスクレビュー記事では「アルバムで聴くことの大切さ」を再認識してもらいたいという意図や願望も込めている。
この機会にミュージシャンたちの芸術作品を1人でも多くの方に知ってもらい、そして手にとってもらえたら幸いだ。
- 初見ならではのレビューと考察
- 全曲解説・おすすめ度(★5段階評価)
- アルバムの歴史
- これからグリーン・デイを聴きたい方
- 曲単位、ベスト盤でしか聴いたことのない方
- 洋楽をとことん楽しみたい方
『ドゥーキー』全曲レビュー/おすすめ度(★5段評価)
収録曲 | 収録時間 | おすすめ度(★5段階) | |
1 | Burnout | 2:07 | |
2 | Having A Blast | 2:44 | |
3 | Chump | 2:53 | |
4 | Longview | 3:58 | |
5 | Welcome To Paradise | 3:44 | |
6 | Pulling Teeth | 2:30 | |
7 | Basket Case | 3:02 | |
8 | She | 2:13 | |
9 | Sassafras Roots | 2:37 | |
10 | When I Come Around | 2:57 | |
11 | Coming Clean | 1:34 | |
12 | Emenius Sleepus | 1:43 | |
13 | In The End | 1:46 | |
14 | F.O.D. | 2:52 | |
15 | All By Myself | 1:37 |
1. Burnout
爽快なギターサウンド、90年代から2000年代初頭によくあったポップでクールな音は聴いているだけで癒される。
ん〜、たまらん。
1:24から10秒ほど続く強烈なドラムソロもあり、今にも飛び跳ねたくなるような曲なのだが、どこか虚無感が隠せないビリー・ジョー・アームストロングの歌声から闇(病み)を感じさせ、同時にアメリカン・ポップ・パンクの在り方も表現しているようにも思える。
タイトル “Burnout” は「燃え尽き症候群」を意味する言葉であるのだが、いったいどういう背景があってこの曲ができたのだろうか。
1991年にバブルが崩壊し俗に言う”失われた30年”が日本で起きている中、アメリカでも90年代前半は不況と就職難に始まり、この頃に社会に進出した「ジェネレーションX」と言う世代の若者は映画や歌などのポップカルチャーの中に自身を見出していったそう。
当時22歳のグリーン・デイのビリーもドンピシャ世代、AC/DCからデッド・ケネディーズまでハマった人物のひとり。
『ドゥーキー』が出た1994年にはニルヴァーナのカート・コバーンが猟銃自サツ。
若者の代弁者的な存在になったり精神的なプレッシャーがあった背景や時代背景を考えると”Burnout”からも同じ若者の精神的な重圧を感じ取れるのだ。
コーラスの”I’m not growing up, I’m just burning out” (僕は大人になってるんじゃない、ただ心底燃え尽きただけなんだ) と言う歌詞からもそう考察できる。
2. Having A Blast
ハイゲインの歪んだオーバードライヴ、そしてそこに温かみを感じるベースラインが合流し、鋭い切れ味のドラムが追い風を吹かせる。
ジュース・ニュートンの “Queen of Hearts” を彷彿とさせるヴァースからは、カントリー・ポップの要素も含んでおり、ルーツ音楽の行き着く地 “カリフォルニア”の温かい気候をビンビン感じる。
ビリーの母親がカントリー・ミュージック好きだから音楽的影響もあったのかも。
しかし、歌われているのはそんな平穏な物語ではない。
冒頭から「背中にダクトテープで巻きつけた爆弾でお前ら全員ぶっ倒してやる」と反骨心や反逆的な内容が歌われており、ビリーいわく「自分自身を爆発させたい(苦痛を乗り越えたい)という気持ちを表現した曲」だそうだ。
Have a blastとは「have a great time, have a lot of fun」(最高な時を過ごす、マジで最高)と言う英語の表現で、「blast」(最高)だけでも会話で使われる。
歌の内容から考えるとシリアスな意味で使っていると考察できる。
verse1では自爆する男の妄想劇が語られ、verse2では周りの影響から苦痛と孤独、不幸を感じると心の叫びが歌われる。
そして、ブリッジでは自分に疑問を投げかけると展開する。
「正気を失うほど落ち込んだのか?/長い破滅の道を辿って、直面するどんなクソデタラメなことでも打ち負かそうと思わねーのか?/頭ん中に何にもならねー小さな問題を1つ1つ積み上げていくのか?」
まさにネガティヴな感情の爆発を “Blast”(クソ!) と表現し、発散するのが “Having a blast” (最高のストレス発散)と言っているのだろう。
I wrote "having a blast" in cleveland in 1992. Had a great show at Euclid tavern but the rest of the night w miserable
— Billie Joe Armstrong (@billiejoe) February 9, 2011
「having a blast」は92年クリーヴランドで書いた。Euclid tavernでのショーは最高だったんだが、その晩の残りは酷いもんだったぜ。
3. Chump
パンクってのは分かりやすくていい、それは歌いやすさ、メッセージ性、演奏技術も込みでストレートで馴染みやすいからだ。
何よりもノレる。
冒頭から鋭いシンバルの音が鼓膜を爆発させ、攻撃的なギターとベースがアクセル全開で駆け巡る。
この “Chump” (ばか、間抜け)という曲は、特に “ド直球なメッセージ”が込められていて、「お前のことはよく知らねーけど、俺はお前のことが嫌いだ/だってお前は俺の不幸の原因だからな」と敵意むき出しで思ったことをそのまま吐き出している。
なんとも爽快な曲だ。
嫌悪についての歌とも考えられるのだが、同時に嫉妬心が言語化された歌とも捉えられる。
ただ「そう思っている自分がバカなのかもしれない」と多面的で洞察力もあり、不安症を抱えていたビリーという人物が色濃く表れている。
歌の後半にはマジックマン(呪術師/シャーマン),自己中な奴,プラスチックマンが登場する。
ランダムに並べられたこの人物たちは、自分を取り囲む周囲の人間を象徴していると考えられる。
神や霊と交信し予言や治病をするシャーマンは知的で能力の高い人物、自己中は自信満々な人物を表し、プラスチックマンは物や見た目を意識しすぎて中身のない人間を表現している。
プラスチックには「見せかけの、不自然な」と言う意味があったり美容整形を”Plastic Surgery”という点からも「作りめいたもの」という感覚も感じられる。
さらにDCコミックには”プラスチックマン”という身体を自由自在に伸ばす能力を持つヒーローもいたり、大量生産大量消費の社会風刺を描いたザ・キンクスの”Plasticman”という曲もある。
【出典】Alex Ross (@thealexrossart) Instagramより
4. Longview
1’26″から1分27秒間続く”Chump” のアウトロがそのまま演奏され(オアシスの”Rock n’ Roll Star”のアウトロ風)、オープニングへと続いていく。
ドラムビートに合わせ印象的なベースのリフが道を示し、ビリーが歌い出す。
彼はまるで詩の朗読者のように独り語りをはじめ、コーラスでは爆発した負のエネルギーが4ビートのリズムで放出される。
グリーン・デイ特有のハーモニーさはあまりなく、ヴァースとコーラスでの強弱がはっきりと分かれている耳に残りやすい楽曲だ。
歌の内容とシンクロするミュージックビデオも必見!
“Longview”では、独房という名の自室に引きこもり、何にもやる気が起きない怠惰な生活を送っている青年が描かれている。
モチベも湧かず母親に働けと言われる主人公(母親自身は仕事に誇りを持っていない)。
一方で彼には想像力があり、唇をかみ目をつぶるとパラダイスが見えるとトリップした風景を語りだす。
ただそれは悪いクスリであり、「人間やめるかぶっ飛ぶか」の選択を迫られるエンディングを迎える。
この曲でもバンドメンバーの日常を色こく反映しており、過去ビリーは以下のような発言をしている。
「起き出すのは、大体昼の12時から2時で……ビール飲んで、マリファナ吸って、外に繰り出し、」
先の見えない(Longview)90年代当時の若者のリアルを描いているようにも見えるね
5. Welcome To Paradise
終始アクセル全開でスピードを感じられる楽曲。
キレッキレのギターサウンド、厚みと深みのあるベース、脳汁が吹き出そうなドラム。
そして全てが交わり、3ピースバンドのハーモニー豊かなコーラスで最高潮に達する。
全てのリスナーはここで気絶するのだ。
1’55″~2’48″から急に変化球を投げてきて、ティム・バートンの映画『ビートルジュース』でもみているかのような、ダニー・エルフマン風のちょっぴり変わった奇妙なメロディが脳を刺激し支配してくる。
そして再びヴァース、コーラスと続きピリオドを打ったかのように静まり返るのだ。
この歌では自立の物語が語られており、初めて実家を出た青年が母親へ綴った手紙の形式で進んでいく。
母さんへ、もう泣き言は聞こえないでしょ。家を出てからまる3週間、突然の恐怖で僕は震えてる。だって自分自身でやってかなきゃいけないから。
それもそのはず、彼が行き着いたのは銃声が響く治安の最悪なウェイストランド(荒れ地)だから。
人によってはスラムでありパラダイスであるこの場所、6ヶ月もいれば段々居心地がいい住処に。
住めば都なのだろうか?
最終的には母親を案内したいとも言ってるよな〜
おそらく彼らの実話をベースにしている曲と考えられる。
カリフォルニア州バークレーにあるクラブ、ギルマン・ストリートにたむろしたり、オークランドの不法占拠住居にマイクと住み着いたりしたというビリー。
まさに最高にパンクなクソガキだったのだ。
またこの曲は2ndアルバム『カープランク』に収録されているもので、今回のは新たにレコーディングしたバージョンである。
6. Pulling Teeth
ここで急に来る8ビートの王道のロックナンバー。
同じカリフォルニア出身のバングルズなんかに近いガールズ・ロックさも持ち合わせていてたり、同時期にイギリスで流行っていたブリットポップ味も兼ね揃えたサウンドもあって幅広い世代に刺さる。
ただノリのいいグルーヴとは裏腹に曲に込められたメッセージは強烈だ。
DV気質のある彼女に監禁されボコボコにされている主人公の嘆きが歌われているからだ。
まるで映画『ミザリー』のような歪んだ愛と恐怖に耐える主人公が想像でき、窓の外を歩く人に助けを求めることすら憚れる。
曲の背景はベーシストのマイクが、当時の彼女アナスタシアと枕投げをしていた際に負った傷からインスパイアされたというもの。
またメタリカの”(Anesthesia) Pulling Teeth”という楽曲からタイトルを面白半分で引用したものだそうだ。
奇妙なことにアナスタシア(スペルは違うが)とマイクは結婚をするが3年ほどで離婚、また”(Anesthesia) Pulling Teeth”を作曲したメタリカのベーシスト、クリフ・バートンは事故死している。
どちらもベーシストに不幸が訪れているのが不可解。
ある意味不吉な曲と言っていいだろう。
7. Basket Case
1曲目の”Burnout”に続きコーラスから入る曲はやはり印象的。
ボン・ジョヴィの”You Give Love A Bad Name”(禁じられた愛)の冒頭で効果的に歌われるドロップド・コーラスに近い名曲の香りがプンプンする。
0’37″から高速で叩かれるスネアから始まるドラム、殴りかけるようなパワーコードをかき鳴らすギター、隠し味のベースで全てが集まりぶっ飛んでいく!
約3分という短い時間の中、終始豪快なサウンドが頭の中を駆け巡るのだが、実はパニック障害と診断されるずっと前にビリー自身が経験した不安障害について歌われている。
「自分自身にゾッとし、被害妄想する」と歌う点や精神科に診てもらいに行ったという描写がとてもリアルで精神障害と真摯に向き合っているビリーが辛く見えてしまう。
肩からかき降ろすギターサウンドは彼の血と涙、精神的つらさを色濃く反映している。
“Basket Case”に関しては【第13回】グリーン・デイの「Basket Case」を完全解説【洋楽名曲解説】にて詳細に解説している。
ぜひ合わせて読んでくれ。
8. She
ずしっと分厚いベースリフに合わせて、優しく歌い出すビリー。
なんとも心地よい調和がとれたサウンドなのだが、開始27秒でパンクと化す。
ハイハット・シンバルが特に印象的で、高音域を繰り返し響かせて明るいトーンの曲調に仕上げてくれている。
1’29″ではハードコア風の雄叫びが聞こえるのも注目だ!
この曲はビリーの当時の彼女アマンダからの教訓が元になっているそうだ。
フェミニストの彼女から「女性というのは長い間モノ扱いされていた」という女性の歴史的背景を教わったというビリー。
元々ラヴ・ソングとして書いたものが、彼女の活動を聞いていくうちに違う意味合いを持つようになっていったそうだ。
ビリー曰く、“Scream at me until my ears bleed” (耳から血が出るまで叫んでくれ)というのは “I’m here to listen.” (話を聞きにきたよ)という意味を持つそうで、相手を理解すること、どんな活動をしている人に対しても良き聞き手になることが大切であるというメッセージが込められている。
“She’s figure out all her doubts, were someone else’s point of view”(彼女は疑っていたこと全て理解した、それは他人の意見なんだと)という歌詞からも、相手の意見をはじめから拒否せず否定的にならずに耳を傾けみるという価値観や理解することへの必要性を意味しているとわかる。
【参考】Rolling Stone:Billie Joe Armstrong: My Life in 15 Songs
J-WAVE『SONAR MUSIC』の Green Day特集(2023年9月26日放送回)に出演したKUZIRAの末武竜之介さんは、この曲をお気に入りにあげていた。
切ないメロディが最高で、朝・昼・夜、行きでも帰りでも聴きたくなると語っている。
ちなみに彼は高校生の頃アルバム『ウノ!』でグリーン・デイに出会い、その後ゲオで過去作をレンタルし聴きあさったそうだよ!
9. Sassafras Roots
ドラムスティックの合図から始まり、「ジャーン、ジャーン、ジャーン」とシンプルに鳴り響くビリーのギター。
そこからラモーンズの”Blitzkrieg Bop”やジョーン・ジェットの”Bad Reputation”に通づる、荒々しくもポップなサウンドが流れ込んでくる。
シンプルでかつ爽快なサウンドでつい体がリズムを刻んでしまうこの曲。
ギターが全面的に出ているのだが、個人的にはベースのアレンジに注目してほしい。
低音でサポートする役割だけでなくメイン級の変則的な演奏を注意深く聞いてくれ!
この歌は「ただ家でゴロゴロして時間を無駄にしている主人公が君の時間を無駄にさせてもいいのか?」と問いかけるもの。
中身の無い内容に聞こえるが、歌の主人公は相手の時間を無駄にすることに専念する宣言している。
共感できる部分があって、私自身コロナ禍でうつっぽくなっていた時、家で引きこもっていた時期がある。
仕事もなく将来に対する恐怖だったり、何やってもうまくいかなかったり、人間不信になったりして不安症っぽい症状もあった。
他人から見れば、私の過ごした何もしていない空白の期間は時間を無駄にしているように見える。
しかしそれは必要な時間で、メンタルを回復させるのに不可欠だったと今だから言える。
Sassafras Rootsの歌詞にはそう言った、無駄な時間を回復の時間という側面があるのかもしれない。
実際北米原産の木、sassafras(ササフラス)にはあらゆる病気や不調を治す薬という効能があり、「幸福の木」という別名もあるそうだ。
またルートビアの主原料の一つにsassafras roots(ササフラスの根)が使われており、上記の効能から「奇跡の薬」を目指した飲み薬としての飲まれていた背景がある。
10. When I Come Around
ブリッジミュートを用いたヘヴィー・メタルっぽいギターリフが印象的だが、グリーン・デイはポップさを忘れてはいない。
AC/DCから影響を受けているというのもあって、今回は “隙間感” が曲全体でうまくアレンジを加えているのが注目ポイント。
そのアレンジもあって高揚感が高まり、コーラスでのハーモニーやギターのアルペジオが美しい。
比較的ゆっくりなテンポ (ミドルテンポ) なので、みんなで歌いたくなるライブまでに歌詞を覚えておきたい楽曲の一つ!
ぜひこの曲はヘッドホンで聞いてほしい!
イントロがLチャンから始まりステレオになる瞬間はたまらんよ!
ちなみにレビューの際に使用しているのがゼンハイザーのHD599。開放型で音の広がりがあるので最高だ!
この曲はビリーと恋人(のちの妻)のエイドリアン・ネッサーとの遠距離恋愛を歌ったもので、ツアーに出ていた際になかなか会えないというフラストレーションから出来上がったそうだ。
確かに歌詞の中には”ditching me” (僕のことを振る) という言葉が登場したり、彼女の心境の変化やお互いの距離感のようなものを感じさせる。
一方で恋人が僕のことを探していると言う描写があったりするのが、なんとも焦ったい。
また慣用句「come around」には
- 〜を訪ねる、やってくる
- 意識を取り戻す
- (意見など)を変える
- (最初は反対していた意見)〜に賛成する
と複数の意味があり、僕(ビリー)の心境の変化を多角的に解釈できる、なんとも詩的な楽曲だ。
11. Coming Clean
パンクと言うよりも王道のロックンロールに近い曲調のナンバー。
正直他の曲と比べると盛り上がりに欠けるのだが、1’34″という尺の中でシンプルではあるがギター・ソロやドラムのアレンジが含まれていて、どちらかと言うと今時の短い曲で聴きやすい印象だ。
ハイスクールを中退した17歳の少年がヤクが切れてボーっとしているとことから歌が始まり、そこから紆余曲折、最終的にはクリーンになると言うストーリーが描かれている楽曲。
一方でこの曲はカミングアウトを綴った歌とも解釈できる。
例えば「塵が積もっている秘密」や「男になるってどういうこと分かったんだ/お袋と親父には理解できないことだろうけど」と言う歌詞からは、まだ息子が同性愛者であることへの理解に苦しむ様子が描かれていると考察できる。
しかし、90年代は自身のセクシャリティをオープンにしているアーティストが増えたりした時期であったそうで、1995年『The Advocate』のインタビューで、ビリーは自身がバイセクシュアルであると公表している。
そのことに誇りを持っており「バイセクシュアルのアイコンって呼ばれるのはファッキン・クールなことだぜ」とも発言している。
12. Emenius Sleepus
アルバムの前半にあった爽快感のあるドライヴの効いたサウンドがここでも蘇ってきた。
エンジンをかけるようなバスドラムから始まり、3コードのシンプルなリフにつながる。
ただガッツリ濃厚なパンクという訳でもなく、ポップさであっさりしすぎている訳でもない、ちょうど中間位に位置する味付け(アレンジ)なので耳疲れせず最後まで聞きやすい楽曲だ。
1’01″からの始まる後半パートは、ブロンディの “One Way Or Another” のアウトロをオマージュしたベースラインが印象的で、リズミカルなトレのドラムがグリーン・デイ色をビンビンに放っている。
歌詞だけを見ると、この歌は長い間会っていなかった友人と再会するものの、相手が変わってしまい以前の様にウマが合わなくなってしまった喪失感を歌っている。
一方で相手ではなく自分自身が変わってしまったのではないかとも解釈でき、「僕は病気だと思うから家に帰りたい」という詩から自分を客観視し、観察している描写を想像できる。
「誰かがノーと言ったのか?」「君が正しくないと言った奴はいたのか?」と問いかけている歌詞からは自問自答している様にも解釈できる。
アルバムの歌詞カードにはビリー、トレ、マイクの三人の写真が掲載されている。
インディーズからメジャーへ移籍しても俺たちの絆は変わらないと宣言している歌にも聞こえるのも不思議に感じる。
13. In The End
マシンガンの様に音の弾丸をぶち込んでくるドラムとビリーのエッジの効いたパワーコードのギターとヴォーカルが同時平行に行進し、マイクとのハーモニーが豊かなコーラスパートへと繋がる。
1番の聞きどころはなんと言っても、1’01″から始まるドラムソロのパート。
ハイスクールでのジャズ・ドラムの経験をバックグラウンドにもつトレの才能が爆発、28秒間に渡って様々な色のドラム演奏を繰り広げてくれる。
この曲はある意味「Emenius Sleepus」に通ずるものがある、前曲では長年会っていなかった友人の変化からくる思いを歌っていて、「In The End」では自分のイメージを気にし、都合のいい人間で固めたうわべだけの人物について歌っている。
変化という過程とそれに伴った結果が凝縮されていて、2つでひとつの物語が完成しているとも解釈できる。
「君はひょっこり現れて/俺のスペシャル・フレンドになってくれるのか」という歌詞からも都合の良い人間(友達)を想像してしまう。
しかし、この曲の背景はビリーの母親が他の男と付き合っているところを目撃ことが元になっている。
10歳の時に実の父親を亡くし、シングルマザーになった母親は子育てができず家族がバラバラに。1、2年後に再婚したことで家庭が崩壊したという。
14. F.O.D.
アルバム最後の曲が重要というのは、今までのレビューでも語ってきたこと。
今回はしっとり系でギターの生音(クリーン・サウンド)のギターで始まるナンバーでビリーの弾き語りで演奏される。
嵐の後の静けさの様な、ひんやりとした触覚を誘うのだが、1’36″から強烈なパンクへと変化。
またしても急な豪雨が降りかかる。
いやいや最近の天気のように変化が激しい。
ちなみにF.O.D.は「F**k Off and Die」(失せろ、○ね)という意味だぜ!
このジェットコースターの様な緩急の激しい曲は、憎しみや怒りを表現している。
冷静に平然を装っているものの、頭では考えていることは憎しみなどの負の感情。
それは「核爆弾で橋を破壊しよう」,「言いたいことが煮えたぎりお腹がズキズキする」という歌詞からも連想される。
しかも、自分だけではなく他人も素顔を隠しているという。
最終的にはこの溜め込んだ感情は爆発。
歌の主人公は”But was it all REAL fun” (だが全て本当に楽しかったのだろうか) と自身に問いかけるという哲学的な締めくくりをする。
15. All By Myself
“F.O.D.”の終わりから1分20秒弱の無音が続き、なんの予兆もなくいきなりボサノヴァ風のドラムとアコースティック・ギターが流れ込んでくる。
Yesの “Roundabout” を思い出させるピッキング・ハーモニクスが使われたり、ザ・モンキーズの “Daydream Believer” をオマージュしたかの様なギターリフが印象的な楽曲。
隠しトラックで締めくくりをするのは面白い発想だ。
綺麗にミックスされたものというよりも、無造作にデモ音源をつなぎ合わせたかの様な楽曲なのだが、歌われているのはただの変態の歌。
WKQX (Q101)というシカゴのラジオ曲でのインタビューで明らかになったのが以下のエピソード。
とある日にトレ・クールが彼女部屋でヘッドホンをつけてオ○ニーをしており、気がついたら彼女の母親が足元に夕飯を用意してくれていたというエピソードを歌にしたものだそう。
このエピソードにはメンバーも爆笑してたぞ。
『ドゥーキー』の歴史
1994年2月にリリースされたアルバム『ドゥーキー』(Dookie)は、グリーン・デイの3rdアルバムだ。
解説
「グリーン・デイってこれがデビューアルバムなんじゃないの」と思っている方は多いかもしれない。
実際私もそう勘違いしていたリスナーのひとりだ。
それは、“メジャー・デビュー作”という文言に気を取られていたという他ない。
正確な話をすると彼らのデビューは1989年、ルックアウトというインディーズ・レーベルからシングル「1,000アワーズ」をリリースするところから始まる。
翌年にアルバム『39/スムーズ』とEP「Slappy」を世に出すが、1991年に前3作をまとめたアルバム『1,039/スムースド・アウト・スラッピー・アワーズ』がリリースされ、バンドは全米ツアーに。
ツアー後に脱退したドラマーの後任として、新たにトレ・クールがドラムに加わり、ここで今のグリーン・デイが誕生する。
3日間で完成させた2ndアルバム『カープランク』をリリース。
赤字覚悟のヨーロッパでのツアーを決行し、口コミで広がった彼らの活躍は大手レーベル”ワーナー/リプリース”の耳にも届く様になっていった。
アングラな新人パンク・バンドがメジャーと契約することは珍しく、批判的な目でみる人もいたが、その意見は今作『ドゥーキー』で覆されることに。
2ヶ月のレコーディングの末、1994年にリリースされた『ドゥーキー』は2,000万枚以上の売り上げを叩き出し、世界的なパンク・ムーブメントを巻き起こした。
同年「ロラパルーザ94」「ウッドストック94」に出演、観客と泥を投げ合うというパフォーマンスをするなど破天荒な姿を見せたグリーン・デイ御一行。
1995年にグラミー賞「ベスト・オルタナティヴ・ミュージック・パフォーマンス」を受賞した。
まとめ:今の時代こそ『ドゥーキー』を聴いてみてほしい
【出典】Green Day (@greenday) Instagramより
アルバムがリリースされたのは1994年。
今から30年前だ。
90年代の若者(ジェネレーションX)の先行きの見えない未来へや精神不安などがストレートに反映されたアルバムになっていて、このメッセージは今の学生にも刺さる内容が多いと思う。
それは、日本でも同じで「失われた30年」とも言われている現状が続いているのもあるだろう。
バブル崩壊から下り坂、給料が上がらず格差が広がる社会になっていったこと。
SNSの普及で可視化された比較社会、コロナ禍での人間不信など現代に通づるものが『ドゥーキー』には込められている。
また同時期の洋楽はストレートに社会政治批判を歌ったりするのに対し、日本では見て見ぬ振りをするような歌が多い気がする。
モーニング娘。の「LOVEマシーン」(1999年)で “日本の未来はwow”という歌詞なんかはいい例だろう。
その代わりアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』(1995年)や映画『回路』(2001年)といった映像作品では社会不安がうまく表現されているのがなかなか面白い。
改めて全曲解説して発見があったのは、『ドゥーキー』には “whine” (泣き言を言う、弱音を吐く)という言葉が頻繁に登場すること。
“Welcome to Paradise”や”Basket Case”, “When I Come Around”はいい例だ。
繰り返しになるが90年代の若者の将来の不安を反映したアルバムで、”whine”は彼らを象徴したような言葉に聞こえる。
もしまだ聞いたことのない方は、ぜひ一度手に取って欲しい。
歌詞カードには歌の内容をイラストに落とし込んだアートワークもあり、より一層楽しめる一枚だ。
世界観が変わるかもしれないし、あなたの心が救われるキッカケになるかもしれない。
来年2月にはグリーン・デイが15年ぶりの単独来日公演をする。
『ドゥーキー』30周年記念の年、改めてアルバムを聴いてみてくれ!