【ディスクレビュー】グリーン・デイの名盤『American Idiot』は何がすごい?全曲聴いてわかったことを解説【洋楽名盤解説】
グリーン・デイのアルバムレビュー第二弾。
今回レビューするのは、2004年にリリースされたアルバム『アメリカン・イディオット』(American Idiot)だ。
小学生の頃に曲単位で一度は聞いたことあるけど、改めて深掘り解説するよ!
またこのディスクレビュー記事では「アルバムで聴くことの大切さ」を再認識してもらいたいという意図や願望も込めている。
この機会にミュージシャンたちの芸術作品を1人でも多くの方に知ってもらい、そして手にとってもらえたら幸いだ。
- 初見ならではのレビューと考察
- 全曲解説・おすすめ度(★5段階評価)
- アルバムの歴史
- これからグリーン・デイを聴きたい方
- 曲単位、ベスト盤でしか聴いたことのない方
- 洋楽をとことん楽しみたい方
『アメリカン・イディオット』全曲レビュー/おすすめ度(★5段評価)
収録曲 | 収録時間 | おすすめ度(★5段階) | |
1 | American Idiot | 2:54 | |
2 | Jesus of Suburbia | 9:08 | |
Ⅰ. Jesus of Suburbia | |||
Ⅱ. City of the Damed | |||
Ⅲ. I Don’t Care | |||
Ⅳ. Dearly Beloved | |||
Ⅴ. Tales of Another Broken Home | |||
3 | Holiday | 3:52 | |
4 | Boulevard of Broken Dreams | 4:20 | |
5 | Are We the Waiting | 2:42 | |
6 | St. Jimmy | 2:55 | |
7 | Give Me Novacaine | 3:25 | |
8 | She’s a Rebel | 2:00 | |
9 | Extraordinary Girl | 3:33 | |
10 | Letterbomb | 4:06 | |
11 | Wake Me Up When September Ends | 4:45 | |
12 | Homecoming | 9:18 | |
Ⅰ. The Death of St. Jimmy | |||
Ⅱ. East 12th St. | |||
Ⅲ. Nobody Likes You | |||
Ⅳ. Rock And Roll Girlfriend | |||
Ⅴ. We’re Coming Home Again | |||
13 | Whatsername | 4:12 | |
14 | Favorite Son | 2:13 |
1. American Idiot
ロック史に残る名曲は星の数ほどある。
グリーン・デイの「American Idiot」も例外ではない。
これも言わずと知れた名曲中の名曲だ。
3つのパワーコードから繰り出されるギターリフが印象的で、シンプルな構成ではあるが2:54という尺の中にみっちり収まっている。
持ち味である爽快感は健全。
まさに、”Simple Is the Best” を体現した楽曲と言っていいだろう。
ギターソロもメロディーをなぞったシンプルな構成だよね〜
表題曲でもある “American Idiot” (アメリカのバカ)は当時のアメリカ社会の混乱を描いている。
2001年に9.11が起き、ブッシュ大統領はイラクが黒幕だと主張。テレビでは核兵器などの大量破壊兵器があると主張したプロパガンダが放送された。
2003年にブッシュ政権はイラク攻撃を仕掛けるものの、実際には破壊兵器は見つからなかったのだ。
リリースされた2004年当時は大統領選が行われており、結果、共和党のブッシュ大統領が再選された。
ただ前述した通り”American Idiot” はブッシュ政権を意味するものだけではなく、アメリカ国内の混乱を歌っている。
そして「何を考え、何を信じ、何を行うのか」、国民一人一人に問いかける歌でもある。
「ニューメディアが支配するこんな国はイヤだ」「ヒステリックな声が聞こえるか?」「サブリミナルで犯したアメリカを」という歌詞からはメディアによる洗脳や◯争によって二分化され不安や不審に感じる国民の声を表現しているのだ。
「俺はレッドネックのアジェンダの一部なんかでもない」という部分からは、国民のイラク◯争に対する意識の差を意味しているとも解釈できる。
※レッドネック:アメリカ南部の田舎に住む無学で貧乏な白人労働者層のこと、主に保守的政治思想がある
2. Jesus of Suburbia
AC/DCばりに隙間感のあるギターリフから始まるのは「Jesus of Suburbia」。
ポップさとパンクさを持ち合わせたサウンドがエネルギッシュに演奏され、「怒りと愛の子」と自称する主人公がアメリカという混沌とした地に「俺はこういう人物だ」宣言している。
1:51、ガンズ・アンド・ローゼズの “November Rain” を彷彿とさせるようなピアノの展開で始まるのは「City of the Damed」。
ドラマチックで美しいピアノの伴奏とドラムに乗せて歌われるこの曲は、彼の生まれ育った環境について語られる。心の拠り所だと信じていたものが崩壊し、全てにおいて投げやりになってしまうと言うものだ。
そして彼はこう言う「I Don’t Care」。
3:42から爽快なリズムとハーモニーに合わせて歌われるこのパートは、ひたすら主人公の心の叫びが表現され歌われる。
いや、ある意味開き直り楽観的になった男の本音にも聞こえる。
後半は重々しいパンク・ビートとともに怒りが爆発するのだ。
5:20からは「Dearly Beloved」が歌われる。
教会の集まりなどで神父さまが唱える言い回し “最愛なる人よ” を意味するこの曲では、鉄琴の音が聞こえたり、アコースティック調に曲調が変化する。
それは”郊外のジーザス”のパーソナリティが描かれているからだろう。
狂気と不安の間を埋めてくれないかと安住するを求める彼。
教会で礼拝している姿や告解をする姿が浮かんでくるのだ。
6:30からは重厚感のあるベースラインから始まる「Tales of Another Broken Home」が演奏される。
ダダン、ダダンと切り刻んでいく音節に合わせ、3ピースバンドの息の合った心地いい演奏が繰り広げられる。
歌われているのは、郊外(以下:サバービア)という名の聖域からの脱出だ。
ただ生きるだけで呼吸はしていない、つまりただ死屍の様にそこに居るだけの存在でしかないのだ。
空っぽで何も信じられなくなったサバービアのジーザスは生まれ故郷の町を飛び出し、人生を見つめ直し、新たな人生の一歩を踏み出すのだ。
グリーン・デイが放つ最初の組曲。
それが「Jesus of Suburbia」(サバービア生まれのジーザス・救世主)だ。
自らを「怒りと愛の子」と名乗る主人公(もちろん聖書には存在しない)は、ソーダ水とリタリンで”安定した”食事をとり、酒やタバコ、Mary Jane(マリ◯◯ナ)、コ◯インで狂った生活をしているという人物。
ここから皮肉まじりに、「これが俺の生き様さ」と彼の物語が始まる。
「City of the Damed」は彼の生まれ育った環境について語られるもの。
セブンイレブンの壁に書かれた落書き “Home is where your heart is”(家はあなたのハートがあるところ) という言葉を目にした主人公は自分が見放された環境下にあると気が付く。
同じ場所でも彼自身の心の拠り所ではないのだ。「他の人と鼓動のリズムが違う」「死者の町」という歌詞からもそう分かる。
「I Don’t Care」は、心の叫びを歌いつつも、アメリカとイラク◯争を批判しているように捉えられる。
「俺たちは戦争と平和の子」「アナハイムからミドルイースト」と言うキーワードからもそう考察できるからだ。
「Dearly Beloved」は混沌とした世界の中、何が正しいのか間違っているのか混乱を意味している。それは自分が狂っているのか疑いつつ、この狂気と不安の間を埋めてくれと懇願している主人公の嘆きからも分かる。
「Tales of Another Broken Home」は「Dearly Beloved」の話の結果、自分が街を出て新たな人生に一歩進むというもの。苦痛を受けてきたこの街から逃げだすのだ。
まるでビリーがグリーン・デイを結成し、世界に飛び出したという伝記物語を読んでいる気分になる楽曲だ。
※リタリン:ナレコレプシーやADHDの治療に用いられる精神刺激薬
※アナハイム:米・カリフォルニア州の都市
※ミドルイースト:中東のこと
3. Holiday
8ビートのリズムに合わせ、振り下ろされた拳からは歪んだギターの音色が響き渡る。
基本三原色のような3音のパワーコードで構成されているのだが、所々に入る ”Hey” という掛け声が勇ましくも同時に国民の怒りや悲しみを思わせる。
それは歌詞を見ると想像できることだ。
1:49あたり、ちょうど中盤に差し掛かる時にダークさを出し、ギターソロが始まる。”American Idiot”のぶっ飛ぶような爽快感はないが、言葉一つ一つに重みを乗せたメッセージが強烈だ。
それは2:26から始まるビリーの語りの中で “punishment”, “government”, “don’t agree”, “meant for me”と頭の中に残る韻を踏んでくるところからもわかる。
サバービアのジーザス(救世主)が新たな街に飛び出し、新たな人生(Holiday)を歩む一方で、外の世界も混沌としていた。
それはリアルな世界線でも起きていることだったのだ。
歌の背景には、やはり9.11の事件やブッシュ政権下で始まったイラク◯争もある。
またビリーがこの曲は反戦の歌と言っていることからも、当時の社会を色濃く反映しているとわかる。
「名もなき人々が死んで逝った」という歌詞や「アルマゲドン」というキーワードなんかもそうだし、利益のためしか考えていない企業や政治家がいるというメッセージからも反戦をテーマにしていると理解できる。
4. Boulevard of Broken Dreams
“Holiday”のアウトロから地続きで演奏が続く。
音にゆらぎを出すトレモロを効果的に使ったイントロが非常に印象的で、アコースティックギターがメロディーを奏でることで歌が始まる。
途中で切り刻むように入るギターは「鳴き声」にも聞こえるし、「孤独の道を歩く男へ残酷に吹き付ける荒風」にも感じる。
そう、リスナーの情を振るわせるのだ。
1:16から嘆きのように聞こえる “Ah-Ah”という声は、まさに感情がこぼれ出た瞬間とも言えるであろう。
verse2に入る前にピアノが入るのも悲しみを誘うね
繰り返し”I walk alone”(ひとり孤独に歩く)と歌われることからも分かるように、街を出たあとのジーザスが重い足をひきづりながら終わりの見えない道を歩いているという描写が語られている。
これは “Holiday” で語られたアメリカン・ドリームを夢見て出てきたアウトローが一夜を過ごした後の「孤独感」や「虚無感」を残酷に表したものだ。
また解釈はたくさんあるが、現実世界で起きている「いつ終わるのかわからない◯争」について表しているものとも捉えられる。
それは「どこまで続くか分からない道」という比喩した歌詞からも理解できる。
ちなみにPeople誌の記事によれば、「これは孤独についての歌だ」とビリーは語っており、『アメリカン・イディオット』の制作のために2〜3ヶ月もアパートに篭って曲を書き起こしをしていた自分と社会の混乱をうまくクロスオーバーさせた楽曲だという。
またリリース後、オアシスの “Wonderwall” にアレンジが酷似しているとノエル・ギャラガーから非難を受けたそうだ。
さらにノエルは「パクるなら俺が死ぬまで待て」というエッジの効いたコメントをしている。
5. Are We the Waiting
まるで一歩一歩あるいている主人公が大地を踏みしめるように、ドラムのイントロで幕を開ける。
ギターのアルペジオは哀愁すら感じ、ビリーの歌声からは孤独の道を歩く主人公を生き写したように思える。
2分43秒という短い尺の中で単調に繰り返されるだけなのだが、コーラスで起こる大合唱はリスナーが一番感動する瞬間だ。
「俺たちは、俺たちは待ち人なのか」と問う部分の合唱で分かるように、主人公以外にも救いを求める多くの孤独な人々がいることを証明している。
果たしてこの世界を救う救世主は現れるのか、存在するのか?
故郷を嫌い、都会での新たな生活を夢見ていたが、実際に都市に来ると自分が合わないことに気づいた主人公。
「これが自分が待ち望んでいたものなのか?」と疑問を抱く一方で、もう後戻りはできず、後悔や不安が募る。
後半に歌われる”Jesus of Suburbia is a lie” (この町のジーザスなんて嘘だ) や”waiting unknown” (待っているのは未知の世界)といった不安や不穏な世界を主人公のフィルターを通してうまく表現している。
そう、彼は自分自身を否定し、生まれ変わる決心をするのだ。
6. St. Jimmy
余韻もなく、ぶった斬るようにいきなり始まる “St. Jimmy”。
原点回帰のように爽快感のあるゴリゴリのパンク節で曲は展開していく。
ジョーン・ジェットの “Bad Reputation” と同じコード進行で繰り広げられる点からも反逆や反抗心を感じ取れる。
反骨心というテーマは歌の内容からも分かること。
過去の信念を否定し、都会に受け入れられるために大きな変化が必要だと考えた主人公は、自らをSt.ジミーと名乗り新たに生まれ変わる。
大通り(bulevard)でお手製のパイプガンをぶっ放し、40人の手下を率いて支配者層(the establish)の心臓に杭を打ちに行くのだ。
過去を捨てるという決断を果たし、新たに生まれ変わったSt.ジミー。
それは節々に散らばれた歌詞からも理解できる。
例えば、”Jesus of Suburbia”で唱えていた「怒りと愛の子」という代名詞を引っ換えて「戦争と恐怖の産物」や「拳銃の申し子」、「喪失と発見」、「喜劇と悲劇」と自らをそう表現するようになっている。
クソ女とエドガー・アランポーの息子という点からは、ビリーの育った家庭環境について触れられているようにも感じる。
また一番注目したいのは “ARE YOU TALKING TO ME” という歌詞だ。
喧嘩腰で挑発的な言葉なのだが、これはおそらく映画『タクシー・ドライバー』(1976) からの引用だろう。
ロバート・デ・ニーロ演じるベトナム帰還兵のトラヴィスは、夜勤のタクシー運転手としてニューヨークの街を走らせる。彼はここで過ごすことでの闇の部分をリアルに体験しその堕落し汚れきった街を文字通り”クリーン”するという内容の物語だ。
“You Talkin’ to Me?”は映画のワンシーンでデ・ニーロが鏡に向かって銃を向ける場面で言われるセリフだ。
作中でトラヴィスはいわゆる救世主のような存在でヒーローのように扱われる。
腐り切ったニューヨークでひとり立ち向かうのだが、グリーン・デイのSt.ジミーにも同じことが言える。
サバービアからやってきた救世主、そして守護神ジミーはカリフォルニアから国までを巻き込む行進を始めたというのだ。
そして新たに何者かへ生まれ変わるという共通点からも、この歌詞の一節が深い意味を持っていると考えられる。
7. Give Me Novacaine
ドラムのイントロからアコースティックの優しい音が交差する。
前半の曲とは明らかに違うのは曲調だけでなく、ビリーの声色だろう。
シャウトするパンクな一面とは裏腹に心の叫びが吐露されるのだ。
歌われているのは、弱きジーザスと強きSt.ジミーの二面性を持ち合わせている主人公の悲鳴というもの。
膨れ上がったプレッシャーに自我が抑えられずジミーに全てを委ねる主人公、ビリーの声色からは救助を求める主人公の姿を感じられるのだ。
またそれは「俺にノヴァカインをくれよ」や「教えてくれジミー、俺は何も感じたくはないんだ」という歌詞からも理解できる。
ちなみにノヴァカインとは歯医者などで使われる局部麻酔剤のことだよ
8. She’s a Rebel
帰ってきた、これぞグリーン・デイ節。
今回はイントロすらいらねえというポップパンクだ。
この曲もパワフルなパワーコードをかき鳴らし、爽快感のある曲調で周りのもの全てを吹き飛ばしていく。
それもそのはず、この曲はジミーと同じような思想を持ち、問題児の女が現れるからだ。
この曲では名前は一切明かされず whatsername(名前を知らないし思い出せない女性)としか表現されないのだが、反逆者で反抗的で革命の歌を歌い自由をもたらす存在として描かれている。
ジミーと彼女の運命的な出会いがここから始まるのだ。
主人公ジミーと女性が出会う曲なのだが、この2人は共通点がある。
反抗的でとにかく手に負えないところだ。
この混沌とした世界で共通点がある人物と出会うのはジミーも安心感を感じるのだろう。破壊寸前のミッシングリンク(失われた環)の中で運命のいたずらのように出会った2人。
2人が共鳴し合うという出来事は違う言葉でも表現されている。
例えば「シカゴからトロントまで」という歌詞。
実はこの2つの都市、人口比率やライフスタイルが似ているだけでなく1991年に姉妹都市として提携されている。
また本作『アメリカン・イディオット』のジャケットのデザインであるハート型のグレネードは “she’s holding on my heart like a hand grenade” (俺のハートを手榴弾みたいに掴んでいる)という歌詞からきている。
【出典】Green Day (@greenday) Instagramより
※ミッシングリンク:生物の系統進化において、現生生物と既知の化石生物との間を繋ぐべき未発見の化石生物(引用:『広辞苑第六版』:岩波書店(2008年))
9. Extraordinary Girl
どこかまだ未知の部族が儀式を行うように民族楽器を叩くようなサウンドが脳裏に響き渡る。
解像度が低く粒の粗い音なのだが、不気味にそそられるのだ。
8ビートで刻まれるのだが、曲はラテン・ミュージックやタコスの香りがメキシカンな香りがプンプンする。
冒頭35秒のいい意味でグリーン・デイらしくない異色さ、ラテン・ミュージックから影響を受けたであろうサウンドから彼らの新たな挑戦を感じられる一曲だ。
この曲はジミーと出会ったばかりの女性whatsernameとの恋愛から崩壊までを描いている。
ジミーは似たもの同士と思ってた彼女がミッシングリンクだと気づき、理解に苦しむことになる。
それは「雨の中置き去りにされたペットのようだ」「死んでいく様にも思える」という歌詞はそんな心理状態を表現していると解釈できる。
an extraordinary girl (異常な女)と何度も歌われているのだが、彼女も傷ついていると理解できる。
名もなくあいつ呼ばわりされている彼女も涙を浮かべ、取り繕った顔を売りにしている日々はウンザリだと日常を送っている。
この2人は◯争が起こっていた当時のアメリカ国民の人物像を反映させた様にも感じることができる。
10. Letterbomb
周波数を合わせるノイズの後に聞こえてくるのは空虚な女性の言葉。
“Nobody likes you”, “Everyone left you”, “They’re all out without you”, “Having fun” (誰も君のことなんか好きじゃない/だから置いてきぼりにするの/君抜きで/楽しむのさ)
おそらくwhatsernameが歌っているのだろう。
開始20秒から枯れたギターサウンドが刻まれ、いつものグリーン・デイのサウンドに沸き上がってくる。
この歌ではジミーとwhatsernameの破局と自分自身の崩壊が語られている。
彼女がジミーに残していったのは不安という負債だけ。
「愛のあるところに借金あり」「町のジーザスなんかじゃない」と言う歌詞にあるように主人公は自分自身も見失い、ジミーの神話も作り話、彼になりきれずに自分をバカ呼ばわりしてしまう結末を遂げてしまうのだ。
一方こちらも “it’s not my burden” (これは私の責任ではありません)と歌われる様に◯争を引き起こした政府に対する皮肉を込めている歌詞が見受けられるのも注目だ。
11. Wake Me Up When September Ends
2音というシンプルなアコースティックギターのイントロで始まる歴史に残るロックバラード。
Verse1はビリーの歌声とキーボード、タンバリンに加え温かみのあるアコースティックギターがメロディを奏でるのだが、1:28からのバスドラムと同時にドラムとエレキサウンドが混じり合いバラードがより深いストーリーに変化していく。
“Wake Me Up When September Ends”っていうコーラス部分での盛り上がり方が最高だよな〜
2:50から25秒間にわたるギターソロは複雑さはないものの、そのパワフルな音色から空から降ってきた雨にうたれ苦しみ、大人になる主人公の姿をつい想像してしまう。
アウトロでアンビエント風の浮遊感のあるサウンドも余韻を残してくれてリスナーの涙を誘うのもグッとくるポイントだ。
“Wake Me Up When September Ends”はビリーの父親についての曲と言われている。
1982年まだビリーが10歳の頃、彼の父親は末期癌で亡くなったのである。
そして、その月が9月(September)なのだ。
葬式の後にビリーは部屋にこもり母親に「Wake Me Up When September Ends (9月が終わったら起こして)」と言ったのがこの曲のタイトルの由来だ。
ただ多くのアメリカ人には9.11の悪夢から目覚めたいという意味としても認識され、ダブルミーニングをもったバラード曲として今も歌われている。
「7年なんてあっという間」という歌詞はグリーン・デイの前身バンド、スウィート・チルドレンが父親の死から7年後に結成されたことにちなんでいるそうで、「20年はあっという間に過ぎた」という後半の歌詞は父親の死から20年の歳月がたったことを表しているそうだ。
【参考】『本当はこんな歌』 著:町山智浩, 発行者:塚田正晃, 発行所:株式会社化アスキー・メディアワークス, 発行元:株式会社角川グループホールディングス (2013年)
12. Homecoming
古いラジオから聞こえてくるような粒子の洗いギターにビリーの歌が後をおう。
相変わらず抜け感のいいリフをかき鳴らし始まるのは「The Death Of St.Jimmy」だ。
曲名にもなっている通り、ジミーの死を歌っている。死と知っても自分の中にいた彼との決別を表している。サバービアを出て街に繰り出し、そこで出会った女性との生活といった酸いも甘いも噛み分ける経験から自分自身を理解した結果だ。
2:25から続くのは「East12th St.」だ。
ジョーン・ジェット&ザ・ブラックハーツの “French Song” のリフをオマージュとして繰り出し始まるこの曲は、もう1人の自分ジミーと決別した後に何をやらかしたのか、留置所に送られて自由になりたいと懇願するサバービアのジーザスの姿が語られる。
警官の声は何も耳に入って来ず、彼は白昼夢を見ているのだ。
4:03からコーラスラインを演奏するチューブラー・ベルが鳴らされ、スネアドラムがマーチングのようにリズムを刻み始まるのは「Nobody Likes You!」だ。
今回はビリーではなくベースのマイク・ダーントがリードボーカルを務める楽曲で、「Letterbomb」の冒頭でWhatsernameがジーザスに投げかけた”Nobody likes you”, “Everyone left you”, “They’re all out without you”, “Having fun” という言葉がコーラスで歌われる。
まだ彼女(Whatsername)がいないことに受け止められず、落ち込んでおり、いまだに頭の中で彼女が残した言葉が頭の中で鳴り響いているという様子をうかがえる。
5:29からはドラムのトレ・クールがリードボーカルを務める「Rock And Roll Girlfriend」が爆音ロックで待ち受けている。
50’sから続く王道のロックとパンクロックの融合が今ここに交わるのだ。
「俺にはロックン・ロール・バンドがあって、ロックン・ロール・ライフがあって、ロックン・ロール・ガールフレンドがいて…」と続くように超単純な歌詞であるが、ロックこそが俺の人生の全てだというメッセージを込めた最高に盛り上がる楽曲だ。
歌詞も簡単だからライブではみんなで歌おう!
腹の底に響くギターがズキズキと貫いてくるのは「We’re Coming Home Again」。
タイトルにある通りこれは主人公ジーザスがサバービアに帰還するという凱旋物語だ。
大都会で衝撃を受けた現実、ジミーというもう1人の自分を演じてみたものの決別したり、自分に似た彼女とも別れる。普通の人間が一度の人生で経験する量以上のことを体感したジーザスはかつての故郷サバービアに戻ってきたのだ。
そして再び “Nobody likes you”, “Everyone left you”, “They’re all out without you”, “Having fun” が脳裏に響くのだが、それは自分自身の口から出たものであった。
人生経験を経て、自己理解を深めたジーザスはジミーという化身を切り離した。これは苦しみからの解放と考えられる。
「戦争と恐怖の産物」や「拳銃の申し子」、「喪失と発見」、「喜劇と悲劇」と自分自身を名乗り始めたジミーだが、それは彼にとっては重圧に感じていたのかもしれない。
「The Death Of St.Jimmy」ではそんな彼の大きな成長の物語が歌われている。
次の組曲「East12th St.」は主人公が施設に入り『ここから出してくれ』と不安と苦しみが語られる。
“facility”と歌われるのだが、精神病院か留置所のどちらかと解釈できるのだが、おそらく後者だろう。
実際2003年1月にビリー・ジョー・アームストロングが飲酒運転で逮捕されているので、その時の経験を重ね合わせて歌っていると考察できる。
また「East12th St.」(東12丁目)という曲のタイトルなのだが、少なくともアメリカにはニューヨークとカリフォルニアの2箇所に存在する場所の名前だ。
カリフォルニア州・バークレーでビリーが逮捕されたのを考慮に入れるとこちらも後者の番地と言っていいだろう。
さらに同州・オークランドのEast12th St.には「Alameda County Sheriff’s Office」という保安官事務所があるので、間違いないだろう。
「Nobody Likes You!」は Whatsernameの声が頭の中を幻聴のように駆け巡る場面から始まる。
眠りから覚めても10杯のコーヒーを飲んでも君はここにいない。そう歌われる点からジーザスはまだ彼女のことを想っており、彼女の助けが必要だと求めていると考察できる。
「Rock And Roll Girlfriend」は約30秒にわたって吹っ切れた主人公がロックバンドを手に入れ、最高のロック人生を歩み、ロックなガールフレンドまでいる人生物語が語られる。
禁酒もしてるしクリーンになったというのにあの女からの呪縛が解けない。そんな男の躁鬱を繰り返す瞬間が描かれている。
ちなみに最後に歌われる”get off my case”は「ほっといてくれ」という意味のフレーズだ。
「We’re Coming Home Again」はジーザスのがただ故郷のサバービアに戻ってきた物語ではないと考察できる。
これは戦争から帰還した兵士たちの歌とも考えられる。
イラクへ行った兵士たちの生と死の間の経験、不安と緊張は故郷に戻ることで安堵する。
曲が前半と後半 (7:07~) でアレンジに変化が起こるように2つの意味が込められているのだ。
13. Whatsername
「ジャッ、ジャッ、ジャッ、ジャッ」とスタッカートを刻むギター、ステップを踏むようなドラム、厚みと膨らみをもたらすベースはポップな雰囲気を運んできてくれる。
しかし、このポップさとは裏腹に歌われているのは、Whatsernameのことを思い出し彼女のことが忘れられず思いに耽るという内容だ。
コーラスパートでその想いは高まり、頭から彼女のことが離れないと赤裸々に語られる。
永遠の彼方のことに思えるのに記憶が呼び起こされるという。
しかし、成長したサバービアのジーザスは最後には振り返ったりはしないと腹をくくるところで曲は終わる。
主人公がかつての恋人を思い出すという歌なのだが、サウンドにもうまく彼の感情が現れている。
まずリズミカルにスタッカートを刻む点は「時間の経過」を表していると考えられる。
秒針が一刻一刻と迫ることにも感じられる上、過去から現在までの時間軸を見事に演出している。
また曲の演奏終わりから20秒近く無音が続くのだが、この隙間の使い方にも他の楽曲にはない演出が施されているので注目して聞きたい。
14. Favorite Son
イントロもなくいきなりグリーン・デイのパンク節が始まり、それは終わりまで途切れることはない。
それもそのはず、歌われているのは当時の合衆国大統領ジョージ・W・ブッシュについて批判をしているという内容だからだ。
それは曲のタイトル “Favorite Son”からも分かる。
“Favorite Son”は直訳すると「大好きな息子」となるが、実際には(大統領選挙において)自分の生まれた州からの厚い支持を持つ候補者のことである。
間接的に皮肉を込めたメッセージも含まれており、”A fixture on the talk shows to the silver screen” (トークショーや銀幕の常連)という歌詞なんかはいい例だろう。
“silver screen” はシルバー・スクリーン・パートナーズ(Silver Screen Partners)のことを指していると考えられる。
これは1980年代から1990年代初頭にかけて映画製作のための資金調達手段として活躍した有限パートナーシップで、投資家から資金を集め、ハリウッド映画の製作資金として提供するものだった。
ブッシュはかつてこの管理運営をするシルバー・スクリーン・マネジメント社の取締役会のメンバーで、任期中に出資していたB級サイコスリラー映画『ヒッチャー』(1986)が指摘され、大統領選中には批評家や対立候補から映画の内容を問題視、「暴力を助長するような映画に投資していた」と批判を受けていた。
歌の後半には「奴はアメリカの代表者じゃない」と力強く歌っていることからもブッシュの批判についてだと分かる。
またこの曲は元々コンピレーション・アルバム『Rock Against Bush, Vol. 2』(2004)というブッシュ批判を企画したアルバムに収録されているので、あからさまだろう。
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『アメリカン・イディオット』の歴史
2004年9月にリリースされたアルバム『アメリカン・イディオット』(American Idiot)は、グリーン・デイの7枚目のアルバムだ。
解説
前作『ウォーニング』(Warning) から4年ぶりにリリースされたこのアルバムは、グリーン・デイの最高傑作と言われている。
キャリア初(パンクバンドとしても初の快挙)のコンセプトアルバム(曲全体を通して1つの物語になっているアルバム)になっており、主人公ジーザス・オブ・サバービアともう1人の自分St.ジミーの誕生から死までを描いている。
アルバムがリリースされるまでに4年の歳月がかかったのだが、それには様々な背景がある。
まず2001年に9.11が起きたことだろう。
ニューヨークで起きたあの悪夢を皮切りに大統領選、イラク◯争の始まりなど次々と起こり始め混乱したアメリカ、混沌とした世界情勢をメンバーたちは目撃したのだ。
『曲を書くときはその時の自分の状況に影響される』というビリーの発言から分かるように本作は当時の時代背景や政治色が色濃く反映されているのも注目。
例えば、「アメリカのバカにはなりたくない」という一言から始まる “American Idiot” ではメディア洗脳やレッドネックについても触れており、”Wake Me Up When September Ends” ではビリーの父親の死と9.11の両方の意味を持たせている。
制作過程にはもう一つ問題があり、作り始めて9ヶ月たった頃にマスターテープが盗まれる事件が起きたのだ。
しかしこれを起点に長尺の組曲の案を取り入れたりと新たな試みをするキッカケになったそうで、結果的に彼らの最高傑作が出来上がった。
アルバムはリリースされてから彼らの勢いは止まらず、Billboardチャートでは初の1位、他6カ国でも1位に輝き、第47回グラミー賞では6部門でノミネートされ、グラミー最高賞「最優秀レコード賞」を獲得しパンク史上初の快挙を成し遂げた。
それが本作『アメリカン・イディオット』なのだ。
まとめ:『アメリカン・イディオット』を全曲解説・レビューをしてみて
【出典】Green Day (@greenday) Instagramより
ロック・オペラというフォーマットを用い新たな境地に立ったグリーン・デイ。
改めてアルバムを通して聴くと新たな発見があると気付かされた。
インタビューでは物語に一貫性を持たせることが難しかったと語っているのだが、初めてのコンセプトアルバムとは思えないほどの完成度が高い。
また「激情」と「愛」というテーマが当時の時代背景を考えさせるものだけでなく、タイムレスネスな深い意味を持っており、いつどの時代に聴いても共感を得られる不朽の名作であると確信した。
今年でリリースから20年、来年2月には15年ぶりの単独公演が決定している。
20周年を記念した特別盤は、未発表のデモ音源や2004年当時のライブ音源などが収録されているのでぜひこの機会にチェックしてくれ。
それまで耳にタコができるくらい彼らのアルバムを聴き倒し、当日を待とう!