【第13回】グリーン・デイの「Basket Case」を完全解説【洋楽名曲解説】
このカテゴリーでは主に楽曲解説にフォーカスしています。
あの曲は、何を歌っているのか?有名な曲だけど、歌詞の内容までは知らない。
なんとなく歌っていたあの曲ってそんな歌だったの、といった疑問を解決するコーナーとなっています。
今回紹介するのは、グリーン・デイの3rdアルバム『ドゥーキー 』(Dookie)から、
“Basket Case” です。
- 曲の意味、背景
- 歌詞やミュージックビデオからの深掘り考察
曲の概要
- 1994年3rdアルバム『ドゥーキー』に収録
- アルバムから3枚目のシングル
- 全英チャート7位
- 1995年グラミー賞「Best Rock Vocal Performance by Duo or Group」にノミネート
- アルバムは第37回グラミー賞「ベスト・オルタナティヴ・パフォーマンス賞」を受賞
- パニック障害を持つビリーの実体験を赤裸々に語った曲。
“Basket Case”の意味
単語 | 発音 | 意味 |
Basket case | UK:/ˈbɑːskɪt keɪs/ US:/ˈbæskɪt keɪs/ | (戦争などで)手足を全部失った人 |
身近なことができない人、 (興奮・疲労などで)(一時的に)正常な判断ができない人 | ||
(軽蔑的)精神異◯者、小心者 | ||
経済危機にある国(組織) |
【参考】ジーニアス英和辞典/WordReference.com オンライン言語辞典
タイトル”Basket Case” 上記のような意味があり、元々は第一次大戦で四肢を失い、カゴで運ばれなくてはならなかった兵士を指すスラングだそう。
時を経てメンタルが不安定な人や精神的に苦しんでいる人を指す意味を持つようになったそうです。
では、なぜこんなタイトルがつけられたのか?
曲の内容を見ていきましょう。
曲の内容
この曲は、パニック障害や不安症を負った男が自分自身へ疑念を持ち、自信を失い被害妄想をし、そんな現実を受け止めることへの恐れが描かれています。
冒頭で歌われる “Do you have the time to listen to me whine” (俺の泣き言を聞いてくれる時間はあるか) やコーラスの”Sometimes I give myself the creeps”(時々自分にゾッとるんだ) といった歌詞の節々からは、自分自身の内面を見つめ直すこと(自己理解)への葛藤や他者からへの理解を求める気持ちが表現されています。
“grasping to control, so you better hold on”(コントロールをしようと必死だからしっかり握るんだよ) という一節からは自分自身を理解し、しっかりしなくてはいけないという必死さを意味しているようにも思えます。
曲の背景
パニック障害を負っていたビリー・ジョー・アームストロング
今では「パニック障害」という診断名が認知されていますが、1990年台初頭は「パニック障害はない」と豪語する専門家が存在していたそうです。
「パニック障害」自体は1980年代に出た病名であるものの、19世紀ごろから心臓学者の文献には記載があったそうで、1894年フロイトが提唱した病名「不安神経症」で認知されるようになりました。
原因は不明で「予期せぬパニック発作」が起こり、「動悸、発汗、身震い、現実感喪失、コントロールを失う恐怖」などといった症状が出るそう。
そして、この曲がリリースされた1994年当時、ボーカル兼ギターのビリー・ジョー・アームストロングはまさにこの症状に陥っていました。
彼自身は10〜11歳の頃からこの障害を持っていたのですが、80年代当時から周りは誰もそんなことは認知していなかったそうです。
息切れや窒息感といった症状が出る度、紙袋で呼吸を整えていたとも語っています。
【参考】公益財団法人 日本精神神経学会/Song Exploder Episode 267 Green Day – “Basket Case”
元々は全然違う内容の曲だった
Song Exploderのポッドキャストに出演した際、ビリーはこの曲がラヴ・ソングだったことを語っています。
1992年〜1993年の頭くらいに、クリティカルマスでラリってる時に作った曲だそうで、その時は「最高の曲ができたぞ」と思ったそうなのですが、効き目がきれシラフになった時に「最低な曲を作っちまった」と恥ずかしくなったとのことらしいです。
改めて歌詞を書き直し、歴史的名曲になるとはびっくりです。
デモ・バージョンでは、HustonとSwankのカップルの物語が描かれてるよ
【参考】Song Exploder Episode 267 Green Day – “Basket Case”
「Basket Case」のミュージックビデオについて
精神病院を舞台にバンドが演奏をするという構成のミュージックビデオ。
白衣を着たスタッフがギターを運び込まれ、それが手に渡った瞬間スイッチが入ったかのようにビリーが歌い出し、マイクとトレが合流しバンド演奏が始まります。
バンドメンバー全員が精神患者の役を演じている発想が面白いな
ミュージックビデオの考察
ONE FLEW OVER THE CUCKOO’S NEST was released 49 years ago. Acclaimed as one of the greatest films of the 1970s and among Jack Nicholson’s greatest performances, the making of story is as big as The Chief…
— All The Right Movies (@ATRightMovies) January 3, 2024
1/51 pic.twitter.com/YjdIIfMmGq
【出典】All The Right Movies (@ATRightMovies) Xより
このミュージックビデオは映画『カッコーの巣の上で』(One Flew Over the Cuckoo’s Nest) をオマージュしたと言われています。
例えば、窓ガラスを割るシーンや頭上にあるテレビを見るシーン、さらにはラチェット婦長にそっくりな髪型の人物が登場し”お薬の時間”をそのまま演出に使ったそっくりなシーンもあります。
【出典】Green Day (@greenday) Instagramより
ビリーの経験したパーソナルな歌の内容と精神病院を舞台にした映画を組み合わせたことで”映像で伝える”というMTV全盛期ならではの手法が最大限に生かされた作品です。
撮影されたのはカリフォルニア州サンタクララ郡に実際にあった廃精神病院「Agnews Developmental Center」。
ミュージックビデオではメンバー以外にも精神病院のスタッフや他の患者などが登場します。
その中で気になる点が2つかあります。
1つ目は、全体がビビッドな色合いで演出されているのに対して、他の患者はグレーになっていること。
元々白黒で撮影されたミュージックビデオ。
これに対しバンドがビビッドな色を加えてくれと指示をし、今の完成形に至ったそうです。
一部グレーのままの人物がいます。
実際グレー(灰色)には「無個性・不安・迷い」を象徴する色であったり、広辞苑によれば「主義・主張などがはっきりしないこと」と定義されています。
このようなことから、自分を見失いコントロールされるがままにいる状態を表してると考えられます。
2つ目は、謎の仮面をつけた患者が意味すること。
ミュージックビデオの中盤〜後半にかけて患者がマスクをつけているシーンが度々登場します。
これも元ネタは映画からでテリー・ギリアム監督の映画『未来世紀ブラジル』(Brazil)からオマージュされています。
「ロボトミー手術」を受けさせられそうになる主人公の緊迫するシーンで出てくるのがこの仮面です。
不気味な仮面からは「時々自分にゾッとする」という歌詞の一節を表現したようにも思えます。
"'Brazil' (1985) was really all about the way organizations work & the people within them. In the midst of that is this guy, smart one, who chooses not to get involved & unfortunately, gets involved by falling in love. It humanizes him & ultimately destroys him."
— DepressedBergman (@DannyDrinksWine) May 22, 2024
— Terry Gilliam pic.twitter.com/12Nz5SUuJ3
【出典】DepressedBergman (@DannyDrinksWine) Xより
自由からほど遠い精神病院という隔離された場所での拘束を描く『カッコーの巣の上で』、情報管理社会の狂気を描いた『未来世紀ブラジル』。
これら2つの映画からのオマージュは音(音楽)だけでは伝わらない映像だからこその表現方法が巧みに使われています。
どちらの映画にも「ロボトミー手術」が登場するよね。
ちなみに『バスケットケース』っていうキモいホラー映画もあるから要チェックな!
まとめ:今の時代こそ聴きたい「Basket Case」
今回はグリーン・デイの「Basket Case」を解説しました。
爽快なパンクにのせ歌われるのは、作曲者ビリー・ジョー・アームストロングの赤裸々な物語。
元々違うテーマで詞が添えられていた歌。
それを自分自身のパーソナリティについて書き直したのは、彼自身に何か変化があったからでしょう。
またパンクという音楽が彼を導いてくれたのかもしれません。
実際にビリーは”パンク”についてこう語っています。
俺にとってパンクは学校みたいなものだったんだ。本当にいろんなことを教えてもらったよ。自分の置かれている状況、住んでいる町や州、生まれた国に関して、いろいろなことを考えたり理解するきっかけをくれたんだ。
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