【ディスクレビュー】シンディ・ローパーのデビュー・アルバム『She’s So Unusual』を聴いてわかったこと【洋楽名盤全曲解説】

シンディ・ローパーのディスクレビュー第1弾。今回レビューするのは、記念すべきデビュー・アルバム『シーズ・ソー・アンユージュアル』(She’s So Unusual)だ。
これから聴きたい人、曲単位やベスト盤でしか聴いたことのない人へ役立つ内容となっているので、是非、最後まで読んでくれると幸いだ。
また、このディスクレビュー記事は「アルバムで聞くことの大切さ」を再認識してもらいたいという意図や願望も込めている。ミュージシャンたちの芸術作品を1人でも多くの方に知ってもらい、そして手にとってもらえたら幸いだ。
『シーズ・ソー・アンユージュアル』全曲レビュー/おすすめ度(★5段評価)
収録曲 | 収録時間 | おすすめ度(★5段階) | |
1 | Money Changes Everything | 5’05” | |
2 | Girls Just Want To Have Fun | 3’58” | |
3 | When You Were Mine | 5’06” | |
4 | Time After Time | 4’01” | |
5 | She Bop | 3’49” | |
6 | All Through The Night | 4’32” | |
7 | Witness | 3’40” | |
8 | I’ll Kiss You | 4’12” | |
9 | He’s So Unusual | 0’45” | |
10 | Yeah Yeah | 3’16” | |
Bonus Tracks | |||
11 | Money Changes Everything (Live) | 4’35” | |
12 | She Bop (Live) | 5’20” | |
13 | All Through The Night (Live) | 4’48” |
1. Money Changes Everything
カッティングとシンセサイザーの音色が融合し、美しいイントロを奏でるアルバム一発目を飾る楽曲。ポップな印象とは裏腹に「お金はすべての物事を変えてしまう」というメッセージがストーリーラインに乗せて歌われている。
歌詞には永遠の愛を誓った男女が登場。「今夜でお別れよ」といった彼女はお金をたくさん持っている別の男に乗り換えてしまう。お金で得たもので、もてはやされる彼女。しかし、そこには信頼できる人間はおらず、結局のところお金しか頼れるものはいなくなってしまう。資本主義社会に生きる現代人へ痛烈に訴えた楽曲だ。
2:49~3:20にかけて演奏されるソロパートはギターではなく、メロディカなのもどこか手作り感がありギラギラした80年代とは対照的なのが曲にうまく取り入れられていて面白い。
実はこの曲はカバー曲。オリジナルは1978年にザ・ブレインズ (The Brains)が発表した楽曲で、もっとニューウェーブ色の強い印象だ。
お金をテーマにしているのだが、10代の頃に路上生活を経験したことのあるシンディだからこそ歌詞に深みと磨きがかかっているようにも感じる。
歌詞に使われている代名詞にも注目したい。女性アーティストがカバーする際、”she”や”he”といった代名詞を入れ替え変更することが多いが、シンディは “I” になっている。長年LGBTQを支持し続けている彼女の姿勢を反映させているのであろう。
2. Girls Just Want To Have Fun
シンディローパーの代名詞と言っていい名曲の一つ。冒頭の流れるようなグリッサンド奏法で演奏されるシンセサイザーが印象的で80年代という時代、そしてシンディ・ローパーという人間像を美しく反映させた元気っぱいの曲だ。
「女の子だって楽しみたいのよ」というメッセージは40年以上も世の女性たちを励まし続け、ガールパワーやフェミニズム運動の側面も持ち歴史を動かした楽曲のひとつとしても知られている。
詳しい解説は「【第16回】シンディ・ローパーの「Girls Just Want To Have Fun」は元々男視点の歌だった?どのようにして代表曲に変化し時代を超え愛され続けるのかを独自解説【80年代洋楽名曲】」と合わせて読んでもらえると幸いだ。

3. When You Were Mine
プリンスの楽曲をニューウェーブの名残りを感じさせながらも80年代のシンセサイザーを織り交ぜたアレンジに味付け。特徴的なシンディの歌声はパワフルかつしなやかで、最後のディストーションの効いたギターとの共鳴が美しくフェードアウトする最高のカバー。男女の三角関係を歌っているのだが、昔よりも今の方が愛しているという一方的な愛が増大していくという表現力がすごい。
プリンスのオリジナルバージョンはこちら!
4. Time After Time
言わずと知れた名曲 “Time After Time”。淡い暖かい空気を包み込むようにコーラスサウンドが響き渡り、シンディの感傷的な歌声が相俟って語られるラブ・ソングがなんとも言えないほどいい。何年も前から何度も聞いている楽曲、いろんなアーティストがカバーしているけど、やっぱりオリジナルが1番好き。

“When You Were Mine”の歌詞の中に “Time After Time”って歌詞出てきて曲が繋がってるのが面白いね。
シンディ・ローパーとロブ・ハイマン(バンド「The Hooters」のメンバー)との共作によって生まれたこの曲は、当時音楽業界でのプレッシャーや恋愛面での葛藤を抱えていたシンディと失恋をしたばかりのハイマンの実体験が背景にあり、別れと再会、愛と支え合いといったテーマが込められている。
曲のタイトルは、たまたまテレビ雑誌に載っていた1979年の映画『タイム・アフター・タイム』思いついたそう。
後戻りするのではなく前進しなくてはいけないという失恋からの立ち直りと時間の経過を散りばめた歌詞と秒針が動くようなリズムがグッとくる楽曲だ。
※映画『タイム・アフター・タイム』:執筆家H.Gウェルズがタイムマシンで未来に行った切り裂きジャックを追うというストーリーの映画。
※シンディは当時彼女の恋人兼マネージャーだったデヴィッド・ウルフとのすれ違い、共作をしたロブ・ハイマンの失恋をしたばかりだった。
5. She Bop
何やらあやしい雰囲気を漂わせる冒頭15秒のイントロ、シンセとベースの低音とシンディの高音の歌声のコントラストが絶妙で無意識に鳥肌が立つ。
1:43からの口笛のソロにシンセサイザーの異色な組み合わせが何とも愉快で、リズムに合わせて息を荒げるシンディの溢れた声が匂わせ感プンプン。女性の自慰行為について歌っているのに後から気がついたのだが、そんな雰囲気を全く感じさせないグルーヴが最高の曲。

不遇にも1985年にPMRCによって最も不愉快な曲の一つに選ばれてしまったよね。

その年にリリースしたフーターズの “And We Dance” では “She was a be-bop baby on a hard day’s night”って冒頭で歌ってる妙な偶然もあるよな。
6. All Through The Night
ロマンチックな夜景、空には星が流れる、そんな情景が頭に浮かんでくるシンセサイザーの音色が脳裏を直撃。終始機械音的な作り込まれたシンセが重なりあうのだが、不思議と疲れる感覚はなく、むしろもっと聞いていたいと思うほど心地がいい。これが80’sマジックか?
2:10からのシンセのソロパートはバロック音楽調で、曲に登場する男女の恋を祝福するかのよう。「2人に終わりはないの」という歌詞からはこの夜が明けず、ずっとこのまま続けばいいのにと感じる最高のバラード。

アウトロの温かみのある歌声なんかは、静寂の夜に響き渡る愛のメッセージにも感じるな〜
ちなみに曲を作ったのはジュールズ・シアーというミュージシャンで、本作『She’s So Unusual』と同じ1983年に『Watch Dog』というアルバムをリリースしている。同アルバムには彼のバージョンが収録されており、ロマンチックさは薄いがアコーディオンを使ったちょっとサーカス風のアレンジが面白い。

シンディのバージョンでバック・コーラスで参加しているよ。
7. Witness
後半でいきなりレゲエやスカ風の楽曲が登場とは驚き。ディレイとリバーブのかかった浮遊感のあるサウンドにスカの組み合わせが、まだ70年代のニューウェーブの残り香を残していて実験的で面白い。それもそのはず、楽曲はシンディのいたバンド「ブルー・エンジェル」時代のメンバー、ジョン・トゥーリとの共作だし、ブルー・エンジェルがニューウェーブバンドだったからだ。

ジョン・トゥーリは1982年にエアロスミスの『Rock in a Hard Place』にサックスで参加しているよ。
歌われているのは男女のもつれなのだが、目撃者や立証人を意味する”witness” がこの場合どう意味してくるのかは難しい。
破滅寸前の男女を客観的な視点で見た時に、その瞬間を目撃しどちらが正しいのかという証人にはなりたくないということなのであろうか?
8. I’ll Kiss You
ドラムのビートに合わせてスタッカートを効かせたベースラインが後を追う。カッティングやシンセサイザーの音色に続いてシンディのユニークな歌声が融合し、摩訶不思議な世界へ連れていかれる。ジプシーから買ったラブポーションで頭がいっぱいになった女の子がなんとかして意中の男にキスしてやろうという変わった内容の歌。

MR.BIGの “Voodoo Kiss” にも誘惑のラブポーションが登場するよね。あるあるネタなのかな?

恋の特効薬であるラブポーション。歌詞の中にも#8と#9の2種類が登場するのだが、後者の方が効き目は抜群。このラブポーション#9について調べてみると、1959年にザ・クローバーズというR&Bグループが “Love Potion No. 9” という楽曲をリリースしていることが分かった。
歌の内容も類似点があり、愛を求めてていた男がロマ人(ジプシー)からの助言により「ラブポーション#9」を手に入れるのだが、効き目が強くて通りすがる人全員に惚れてしまうというもの。
"Can philosophy help us reconcile ourselves, one might wonder, to life-paths unfollowed?" @helenadebres uses Tweedledee and Tweedledum as a lens onto twinhood. https://t.co/aXw0AV18l3 pic.twitter.com/hT4h8YGGyv
— Los Angeles Review of Books (@LAReviewofBooks) December 26, 2023
【出典】Los Angeles Review of Books (@LAReviewofBooks) Xより
その他、『鏡の国のアリス』に登場する「トゥイードルダムとトゥイードルディー」(Tweedledum and Tweedledee )が “twidely – dee – and twidely – dum” という歌詞に現れている。似たもの同士が争っているとのことから「似たり寄ったり」との意味を持つのだが、歌詞の登場人物の男女のことを表現していると捉えられる。
児童文学やマザーグースといった作品から引用して、表現の仕方が美しい一面をのぞかせている。
9. He’s So Unusual
クラシックなピアノの演奏のみで構成された楽曲で、シンディがまるでベティー・ブープになりきったかのように歌い出すのが印象的な歌。イヤホンやヘッドホンで聴くとよく分かる通りRチャン(右耳)からしか音が出ていなく、ステレオでない。また回転するレコードの溝を針が動くスクラッチノイズまでも再現されており、たった46秒の尺の中に面白い要素がふんだんに込められている。

“Girls Just Want To Have Fun” のミュージックビデオの冒頭でイントロのピアノの伴奏が使われているよ!
アルバムのタイトル『She’s So Unusual』は多分ここからきているのではないだろうか。シンディ自身が “風変わり”であることもそうだし、なんと言っても声色がそっくりなのが面白い。
“He’s So Unusual”もカバー曲で、オリジナルはベティー・ブープのキャラクター・モデルになったヘレン・ケインというジャズシンガーが1929年に発表した曲だ。大学に通う博学な彼氏を持つ女性が主人公で、頭が良くて知識がたくさんある彼のことを誘おうとすると、恥ずかしがって断られちゃう(彼って変よね〜)といった内容が歌われている。
【出典】Betty Boop (@bettyboop) / Fleischer Studios (@fleischerstudios) Instagramより

ちなみにヘレン自身も人気な黒人シンガー、エスター・ジョーンズ(ベイビー・エスター)のパフォーマンスを見て真似たらしいよね

そのスタイルを真似たヘレンが有名になって、エスターは15歳で表舞台から消えてしまったそうだ。
参考:Celebrating the Life & Legacy of Esther Lee Jones “BABY ESTHER”
10. Yeah Yeah
ドラムのビートから急に始まり心臓が破裂するくらいビビるのだが、中毒性があるリズムが最高。The B-52’sの “Rock Lobster” をオマージュしたようなニューウェーブサウンドに、小刻みに揺れる奇妙な歌声がゾクゾクする。愛のポエムがすごく表現力豊かで、アウトロでベティー・ブープのおしゃべりが入ってプログレッシヴな世界観と音作りが面白い楽曲。
11. Money Changes Everything (Live)
シンディのMCから短いイントロへ展開するライブならではのアレンジが楽しい。終盤の”Money”のビブラートと連呼する力強さから、ついステージの上を踊り回る姿が浮かんでしまった。

1989年リリースの日本独自企画アルバム『The Best Remixies』かヨーガクトクセン・シリーズ、または各ストリーミングサービスで聴けるよ!
12. She Bop (Live)
冒頭の観客を焦らすイントロとコーラスでのちょっとレゲエの要素が混じったアレンジが面白い。個人的に3:05のリコーダーのソロから”Hey!!”という掛け声に合わして、ギターソロにバトンタッチするところがお気に入り。音の変化の仕方に痺れた。
13. All Through The Night (Live)
ハイハットでリズムを刻むところから始まり、ギターとシンセサイザーが交わりシンディの歌声が聞こえると歓声が響き渡る。そして、いざコーラスパートに入ると吸い込んだ息を一気に出すように感情が歌詞にのり立体感が増している。オリジナルバージョンほど響き渡る感じはないが、シンセサイザーの青紫の色が包み込む会場の雰囲気が想像できる。最後、アウトロのシンディの高音域のヴォイスに魅了される会場の歓声から全盛期の彼女を追体験しているように感じた。

調べたり聞き比べてみたけど、今回聞いた”She Bop”と”All Through The Night”のライブ盤はヨーガクトクセン・シリーズのボーナストラックでしか聞けない音源みたい。
アルバム『シーズ・ソー・アンユージュアル』の歴史
【出典】Cyndi Lauper (@cyndilauper) Instagramより
アルバム『シーズ・ソー・アンユージュアル』は、1983年にリリースされたシンディ・ローパーのデビューアルバムだ。
解説
【出典】Cyndi Lauper (@cyndilauper) Instagramより
それまでナイトクラブでカバー曲を歌ったり、ボーカルコーチとして指導をしたり、ロカビリーバンド、ブルー・エンジェルのリードボーカルとして活動してきたシンディ・ローパー。バンドは一枚のアルバムを出して解散をしてしまう。
Today’s Vinyl 📸 Blue Angel LP from Japan: reissue 1984 🇯🇵 #cyndilauper #blueangel #lp #vinyl #notjustvinyl #reissue #rerelease #japan pic.twitter.com/vYf2ejAEaf
— Cyndi Lauper Museum (@CyndiMuseum) July 8, 2023
【出典】Cyndi Lauper Museum (@CyndiMuseum) Xより
生活費を稼ぐために古着屋や日本食レストランでの仕事をしたり、ナイトクラブのシンガーとして活動していたが、ミュージシャンとしての夢は諦めていなかった。
ひょんなことから、ナイトクラブでの姿を目にしたデヴィッド・ウルフ(後にマネージャーになる人)がシンディを気に入り、ポートレート・レコードと契約。その後リック・チャートフというプロデューサーの指揮の元、フーターズで活動したロブ・ハイマンとエリック・バジリアンの協力で奇跡的なアルバムが出来上がる。それが本作『She’s So Unusual』だ。

『She’s So Wonderful』っていう名前の候補もあったみたいだよ〜

ちなみに湯川れい子さんによると、シンディはGirls Just Want To Have Funに勝手に『ハイ・スクールはダンステリア』っていう邦題がついたことに激怒して、刷り直しに膨大な予算がかかったらしいぞ。
【出典】Music And Video Exchange (@musicandvideoexchange) Instagramより
アルバムからは4曲が全米シングルチャートのトップ5入りを果たす記録的なヒットを叩き出し、売り上げ販売枚数は400万枚を突破。女性アーティストとしての初の快挙を成し遂げた。
2014年には30周年記念盤がリリース。新リミックスバージョンやボーナストラック、デモ音源などが収録されており、DVDにはインタビュー形式で語られるシンディによる解説を見ることができる。
- 【GULF NEWS】Cyndi Lauper recounts homeless, broke days
- 【The New Yorker】Cyndi Lauper’s Mission to Help Homeless Teens
- 【Financial Times】Cyndi Lauper’s Time After Time — a 1980s-defining romantic ballad
- 【People】Cyndi Lauper’s Life in Photos | Celebrate the life of the incomparable diva as she turns 70 years old
まとめ:唯一無二の歌声の持ち主シンディ・ローパーのアルバムを聴いてほしい!
【出典】Cyndi Lauper (@cyndilauper) Instagramより
今回は、シンディ・ローパーの『She’s So Unusual』をレビューしてきた。20年以上前から知っている曲もあったのだが改めてアルバム全体を通して聞いてみると面白い見方ができる。
お金が全てを変えてしまうという “Money Changes Everything”から始まり、女の子だってちょっとは楽しみたいのよという “Girls Just Want To Have Fun”があったり、失恋から立ち直るための “Time After Time”、逆にちょっぴり刺激的な “She Bop” だったりラブコメ風の曲も散りばめられており、聞き応えがあるそんな作品だった。
カバーソングが目立つが、ソングライターとしては外部のライターとの共作で “Time After Time”, “She Bop”, “Witness”, “I’ll Kiss You”の4曲関わっており、ブルー・エンジェル時代のメンバーであるジョン・トゥーリとのタッグもあったりと多方面の協力があっての改めて感じた。
【出典】Cyndi Lauper (@cyndilauper) Instagramより
私も最後の来日公演も行く予定なので、ぜひ行くかたは楽しみましょう!
このように日々洋楽の魅力を発信しているので、SNSも合わせてチェックしていただけると活動の励みになり幸いだ。
それではまた次の記事で!SEE YOU NEXT WEDNESDAY!!





