【ディスクレビュー】エアロスミスのアルバム『ドロー・ザ・ライン』は本当に駄作なのか?徹底的に聴き込み全曲解説して分かったこと【洋楽名盤】
エアロスミスのディスクレビュー第5弾。
今回レビューするのは、エアロスミスの5枚目のアルバム『ドロー・ザ・ライン』(Draw the Line)だ。
これから聴きたい人、ベスト盤でしか聴いたことのない人へ役立つ内容となっているので、是非、最後まで読んでくれると幸いだ。
このディスク・レビュー記事は感性、感覚の話になるので、あくまで個人の意見としてとらえていただきたい。
- 初見ならではのレビューと考察
- おすすめ度(★5段階評価)
- アルバムの歴史
- これからエアロスミスを聴きたい方
- ベスト盤でしか聴いたことのない方
- 洋楽をとことん楽しみたい方
『ドロー・ザ・ライン』全曲レビュー/おすすめ度(★5段評価)
収録曲 | 収録時間 | おすすめ度(★5段階) | |
1 | Draw the Line | 3:22 | ★★★★★ |
2 | I Wanna Know Why | 3:08 | ★★☆☆☆ |
3 | Critical Mass | 4:50 | ★★★☆☆ |
4 | Get It Up | 4:01 | ★★☆☆☆ |
5 | Bright Light Fright | 2:19 | ★★★★☆ |
6 | Kings and Queens | 4:53 | ★★★★★ |
7 | The Hand That Feeds | 4:21 | ★★★☆☆ |
8 | Sight for Sore Eyes | 3:51 | ★★☆☆☆ |
9 | Milk Cow Blues | 4:21 | ★★★☆☆ |
1. Draw the Line
スライドギターから始まり爽快感MAXのリズムで刻まれた、怪しさを持つブルースとハードロックの野獣ソング。
これが俺の待っていたエアロスミスだ。
2:37からスティーヴンのシャウトが激しくうなり、それに連なり演奏とバックコーラスが砂嵐のように差し込む。
荒野に去るならず者の後ろ姿が頭に浮かんでくるロックソングだ。
この曲は一言で言うならば、”ド◯ッグ中毒者”の歌だ。
ただ彼らも表現者であるので、その意味はオブラートに包み込まれている。
歌にはギャンブルをする男が登場し、その駆け引きのはざまを”Draw the Line”と表現している。
歌詞に “salt”(塩)という隠語を使っているし、その内容も限界ギリギリを生きていると歌っているので体がボロボロになっていることを表現しているとも考えられる。
まさに”Draw the Line”(一線を引く/限度を決める)とはそういう歌だ。
2. I Wanna Know Why
エアロスミスの魅力的なところは、なんと言ってもツインギターだ。
ジョー・ペリーとブラッド・ウィットフォードのギターがこの曲でも煌びやかなイントロに花を添える。
全体的にブルースを基調とした楽曲で、ピアノのソロがあるのがこの曲の注目ポイントの一つだ。
泥臭さの中にジャジーなピアノが差し込むことでうまく調和が取れている。
ただその歌詞からは、ド◯ッグ中毒で自分をコントロールできない男の物語が想像できる。
ド◯ッグを人に例えて、「俺をバカに呼ばわりする奴」とスティーヴンは叫ぶ。
自我を取り戻そうとする姿勢から “I Wanna Know Why”(その理由を知りたい)というタイトルが付けられたのだろう。
3. Critical Mass
妙な浮遊感を感じさせるギターが薄らと聞こえてきたと思えば、スティーヴンの歌声がベースとドラムを連れてやって来る。
“Sweet Emotion”を彷彿とさせるハーモニーが気持ちよく、ハーモニカやピアノがゴテゴテのブルースを作り出すので、とてもハードロックとは言えないが音の広がり感やつ切り込み要素が面白い楽曲だ。
曲が終わったかと思えば、4:13から再び伴奏が始まる。
しかも逆再生させた音源なので妙なトリップ感を感じさせる。
曲名の「Critical Mass」(クリティカルマス)とはどういう意味か?
もともとの意味は以下のようなものがある。
- 臨界質量(核分裂の連鎖反応を維持するために最低限必要な質量)
- 広告で商品やサービスが普及するのに必要とされる供給量
- 自転車利用の促進を目指す市民運動のひとつ
エアロスミスのこの曲では、バンドの臨界点を意味していると考えられる。
無名のバンドから一般に認知されるようになる分岐点の瞬間を歌っている。
一方で「Critical Mass」が意味する「結果を得るのに必要な量」とは知名度だけではなく、”ド◯ッグ”も意味しているとも解釈できる。
事実前作『ロックス』の成功から一変し、彼らはド◯ッグに手を染めるようになった。
ギターのジョー・ペリーも「ド◯ッグに手を出したミュージシャンというより、音楽に手を出した中毒患者に近い状態だった」と語るほど。
歌詞にある「青い筆で、シュールレアリズムのシーンを壁に描く」とあるのも幻覚をみているのかもしれない。
“バンドの破滅”を示唆しているとも捉えられる楽曲だ。
4. Get It Up
ギトギトな滑りけを感じさせるスライドギターが私たちリスナーの五感を刺激する。
頭に浮かんでくるのは、カンカン照りの砂漠のど真ん中で汗水垂らしながらロックしている野獣5人組。
サウンドは好みではあるが、一方で曲のまとまり感が少なく、各が違う方向へ向かっていく瞬間が演奏から終始伝わる。
曲はとにかくエロい。
売春婦のナンシーに跨り、”イカしてくれ”とまるで暴れ馬のように最高のS◯Xを朝までやるという内容が歌われている。
この歌は他と比べると直接的な表現が多いのだが隠語もある。
例えば、歌い出しに出てくる “rocking Whores” は “rockin’ Horse”をもじった言葉になっている。
しかし “give it up”((女性が)ヤらせてくれる)というスラングが多用されているのは何とも卑猥ではあるが、これが野獣のロックンロールであるということだろう。
ちなみにタイトルの「Get It Up」には 「勃起する」という意味がある。
5. Bright Light Fright
ベンチャーズのテケテケおじさんを思い出させるかのようなイントロから始まり、アップテンポの爽快なドラムにつながる。
リードボーカルはスティーヴンではなく、ギターのジョーが担当している初の曲。
ハードさはなく、どストレートなロックンロールでパンクなナンバーが心に刺さる。
ぜひ前曲とセットで聞いてほしい。
なぜなら歌の内容からすると「Get It Up」と「Bright Light Fright」は2つでひとつの物語になっているからだ。
「Get It Up」では夜を楽しみ、「Bright Light Fright」では夜が明け、色んなものが部屋に散らばり、ボーッとする中に差し込む憂鬱な朝日がうざいというもの。
なんだかんだでちゃんと朝に起きれてるのがすごいと思うのだが、健康なのか、不健康なのか意味不明だ。
ただ分かるのは「眩しい光が怖い」とジョーは歌っていることだけだ。
「眩しい光が怖い」ってもしかしたら自律神経の乱れかもな。
彼らが使っていた薬の影響があるのかもしれない。
実はこの曲、ライブでは長年封印されており、最後に演奏されたのが1994年のことであった。
しかし2023年の「フェアウェルツアー」のNY州エルモントのUBSアリーナでの公演で、29年ぶりに演奏され話題になった。
【参考】エアロスミス、9月9日の公演で29年ぶりに「Bright Light Fright」を披露|MUSIC LIFE CLUB
“Bright Light Fright” っていう表現は「Get It Up」の歌詞にも登場してるよ!
6. Kings and Queens
低音の効いたギターからは玉座に相応しい支配者の風格が現れている。
歌われているのは、中世のヨーロッパで起きた絶対王政の政治体制の物語からフランス革命、宗教戦争などで多くの血が流れたという壮大なテーマの伝承物語だ。
伝統楽器のバンジョーがうまく世界観を作り出している中で、シンセサイザーが臨場感を高めてくれるのが非常に素晴らしい。
3:11からの後半パートからはサスペンス要素を感じさせ、アンジェロ・バダラメンティが作曲したドラマ『ツインピークス』のテーマ曲を連想させる。
悲しみすら感じるギターソロが何ともいえない。
ドラムとベースが目立つこの曲。初期段階ではブラッド、トム、ジョーイの3人がジャック・ダグラスと着手したものだった。
そこへスティーヴンが詩を書き足し、壮大な物語へと変貌した曲になったそうだ。
7. The Hand That Feeds
ノリノリでいい曲かと思えば実はめちゃくちゃ危険な香りがする、薔薇にトゲがあるようなものだ。
そしてこの曲でも同じことが言える。
この曲でもド◯ッグ中毒者が歌われている。
苦しみながら “Doctor, doctor” と叫ぶスティーヴンからは、すでに限界を感じて仕方ない。
「俺は重病なんだ」というヴァースからはド◯ッグ中毒で助けを求めている男がわかるし、ジョン(売春婦の客を意味するスラング)に縋る男という人物も容易にうかんでくる。
ただ、“I ain’t the dog that bites the hand that feeds me”(俺は恩を仇で返す下劣な奴なんかじゃねえ)という歌詞からはスティーヴンの心に自我がまだ残っていることが歌に乗って伝えられている。
演奏を聴いていると “Draw the Line” のギターリフがそのまま取り込まれていたり、『オペラ座の怪人』の “The Phantom of the Opera” がサンプリングのように使われている。
曲の内容で共通点があったり、印象付けるために使用したと考えられる。
クリスティーヌが仮面を取ってしまうところとか想像しちゃうな。
タイトルの「the hand that feeds」は「恩を仇で返す」という意味のことわざ。
「(Don’t/Never) bite the hand that feeds you」は直訳で「食べさせてくれる手を噛む」という意味。
餌を与えてくれるご主人に手を出さない犬のイメージが次第に変化し、この意味になったとか。
また、第一次世界大戦中に発表された”Don’t bite the Hand that’s feeding you.”という曲にも由来するそうだ。
8. Sight for Sore Eyes
先程の曲とはうって違い、有頂天なファンク調に刻まれるドラムから始まる。
それに合わせて歌われるのは、都会に染まった野獣が目の保養のためにとある美女を拝みに行くというストーリーだ。
他の曲とは違い、この曲はただのエロいロックンロール野郎の欲に満ちた楽曲である。
ニューヨーク・ドールズのデヴィッド・ヨハンセンが作曲で参加してるよ!
9. Milk Cow Blues
アルバムの最後の曲はとても重要であることは間違いない。
「終わりよければ全て良し」ということわざが意味するように、彼らの原点であるブルースを取り上げた。
「Milk Cow Blues」は、ココモ・アーノルドが1934年に発表した楽曲だ。
エルヴィス・プレスリーも「Milkcow Blues Boogie」というタイトルでカバーするほどの有名曲だ。
エアロスミスのこのバージョンは、ザ・キンクスのカバーした「Milk Cow Blues」からきている。
しかし、野獣の味付けはもっと味が濃い。
スティーヴンのシャウトも見せつつ、得意のハーモニカをふき荒らす。
そしてギターも荒々しさがあって、デビューアルバムの時のような元祖エアロスミス流に調理されている。
ココモ・アーノルドのオリジナルでは恋人を失い、心の痛みに打ちひしがれている男のことを歌っており、エアロスミスの歌の中でも1人残された男が主人公で登場する。
歌詞に「太陽が沈んでいく様子」が描かれるのだが、これはバンドの終わりの始まりを示唆していたのかもしれない。
アルバム『ドロー・ザ・ライン』の歴史
アルバム『ドロー・ザ・ライン』は1977年に発表したエアロスミスの5枚目のアルバムだ。
解説
【出典】Aerosmith (@aerosmith) Instagramより
前作『ロックス』が大ヒットし大金を手にしたエアロスミス御一行。
何を間違えたのか彼らはアルコールとド◯ッグにハマっていてしまった。
とはいえ彼らはメイド・イン・U.S.Aの野獣だ。
そんじょそこらのアマチュアとは違う。
プロですから。
1977年1月〜2月にかけ初のジャパンツアーを行い、その生き様を日本中に知らしめた。
✳エアロスミス1977年初来日コンサートチケット半券✳『AEROSMITH JAPAN TOUR'1977』2月9日 日本武道館大ホール 2階席(アリーナ席のチケットはピンクでした1階がオレンジだったと記憶しています)
— ✝️山田玲子✝️ロックな古本屋ブンケンロックサイド✝️黒服メタラー (@brs_rei) December 29, 2021
ブンケンロックサイド
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【出典】山田玲子 ロックな古本屋ブンケンロックサイド 黒服メタラー (@brs_rei) Xより
クイーン、KISS、エアロスミスは3代ロックバンドって言われてるよ。
本作の制作は同年4月に開始、『ロックス』の時は倉庫であるのに対して、今回レコーディングを行ったのは “お城”だ!
場所はニューヨーク州アーモンクにあるセナクル城(正確には修道院跡地のお屋敷で300も部屋がある)。
※現在は取り壊されているそうだ
【参考】Antiquity Echoes: The Cenacle
エアロ流のウォール・オブ・サウンドを作り出せる環境が整ったにもかかわらず、スティーヴンとジョーは部屋に閉じこもってはド◯ッグ漬けになってたそう。
プロデューサーのジャック・ダグラスもみんなド◯ッグと隣り合わせの環境にいたため、クレジットの人数が多いのはそのせいでもある。
まともに機能していなかったのだ。
メンバーはこの頃の記憶はほとんどないと回想するほど。
そんな時、ヨーロッパツアーや全米ツアーをする中で悲劇が起こる。
フィラデルフィア・スペクトラムでの公演で観客が投げ込んだ花火がスティーヴンのこめかみに命中。
“スティーヴン失明説” が流れあわや大惨事になるところであった。
悲劇はそれだけではなく、次はジョーの家が火事で全焼するという事態も起こる。
また、完成度を重視したスティーヴンとシンプルさを重視したジョーの音楽性の対立があったりと混沌とした状況が続いていたこともあった。
そんな白い粉と炎に包まれながら、1977年12月にリリースされたのが『ドロー・ザ・ライン』である。
なんだかんだでプラチナ・ディスクまで獲得している。
「白い粉で線を引く」と訳してもおかしくないな。
まとめ:『ドロー・ザ・ライン』を全曲解説・レビューをしてみて
【出典】Aerosmith (@aerosmith) Instagramより
なんの情報もなしに聴くとブルース感が増し、スライドギターとかもありカッコいい印象の曲が多いという印象だが、混沌とした状況の中生まれたという背景を知るとそうも言ってられない。
”やめたくてもやめられない” という中毒に誰もが一度は陥ったことがあるかもしれない。
それはお菓子だったり、ゲームだったり、何でもだ。
しかし、エアロスミスは1番ヤバいものに手を出してしまった。
一方で彼らもバカではない。
曲を読み解くと彼らにも自我が残っていることがわかる。
「The Hand That Feeds」で “Doctor, doctor”と叫んでいるのなんかは良い例だろう。
エアロスミスの暗黒時代(終わりの始まり)はここで終わってしまうのか?
これからどう巻き返すのか?
次回作に期待しておこう。
このように当ブログではアルバムのレビューを定期的にしているので、気になる方はチェックをしてもらえると幸いだ。
これからも洋楽の魅力を伝える記事を書いていくので、更新通知がいくようにX(旧Twitter)とInstagramのフォローをしてもらえると最高だ!!
それでは良き洋楽ライフを!
SEE YOU NEXT WEDNESDAY!