【考察】映画『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』で洋楽ヒット曲が使われた理由を解説
2023年6月30日に公開された『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』。
第1作目から42年、シリーズ最後の作品となる今作にはある3つの有名曲が使用されている。
今回はそんな曲がなぜ使われ、どんな意味を持つのか?
ダイヤルをひも解いていこうと思う。
- 劇中での曲と役割
- 曲の背景
- 曲から分かる考察
The Beatles – Magical Mystery Tour
今作の冒頭は過去の回想シーンから始まる。
1944年ナチス軍の中に紛れ込み毎度のことドタバタな展開に。
その後今作のキーアイテムとなるダイヤルを見つけ出し話の展開は現代(1969年)へと繋がっていく。
考古学者インディ・ジョーンズは椅子に腰掛け眠っているのだが、近所から爆音で流れるロックで起こされてしまう。
そこで流れるのが、
ザ・ビートルズの「Magical Mystery Tour」だ。
「Magical Mystery Tour」ってどんな曲?
【出典】The Beatles (@thebeatles) Instagramより
時は1967年4月上旬、
ポール・マッカートニーが米ロサンゼルス行きの飛行機の中でメニュー表に「ミステリー・ツアー」っていうツアーがあったら面白いと思いついた曲。
リバプールの労働者階級の娯楽でイングランド北西部にあるブラックプールへのバスツアーと、
映画『カッコーの巣の上で』の原作者でアメリカ作家のケン・キージーのサイケデリックなペイントを施した中古のスクールバス(FURTHUR号)で若者たちにLSDを広めまくるというぶっ飛んだツアー
の2つからヒントを得たと言われており、
のちにこのアイディアは、テレビ映画『マジカル・ミステリー・ツアー』となりこの曲は映画の主題歌としても知られるようになった。
映画内での意味合い
回想シーンから一転し1969年に移る。
こちらに背を向けてアパートの一室で椅子に腰をかけ眠っているインディが映し出されるのだが、斜め下の部屋に住む若者たちの流す「Magical Mystery Tour」で飛び起きてしまう。
予告編の冒頭でそのシーンが見れるよ!
この曲の歌詞の始まりは、サーカスの呼び込みのように “Roll Up, Roll Up” と叫ぶところから始まる。
「さあ、いらっしゃいマジカルミステリーツアーの始まりだよ」と注目を集めており、
ショーの始まりを表すこの曲と、映画の始まりを重ね合わせている。
インディ役のハリソン・フォードはタオルミーナ映画祭でのインタビューで、1944年から1969年に移り変わったことをどう表現するか大変だったと語っている。
映画の設定である1960年代から1970年代というのは、公民権運動、女性運動、サイケデリックな文化など目まぐるしい変化が起きていた時代だった。
年老いたインディは孤独であるものの、若さの喪失、活力のなさ、そして過去に彼の話題に全く興味を持たなかった人々に考古学を教えているという現実と向き合っている姿を見せたかったそうだ。
確かに考古学よりも宇宙にいくことへ関心のある周りの風潮もあって疲れ切った印象を受けた
またハリソン・フォードはこの曲を映画に使用するために100万ドル(約1億4千万円)の使用料を払ったそうで以下のコメントを残している。
“The reason I was sitting in the char with my back to the cameras with an empty glass in my hand … oh well, it’s a sign we know what that means,” Ford explained. “And then the rock and roll music. Well, they paid $1,000,000 for that rock and roll music. It’s pretty iconic music that brought us right back to that space.”
「なぜ僕がカメラに背を向け空のグラスを持ってるかって…あのサインならみんなが分かるさ」
「それからあのロックの曲。100万ドルもあの曲に払ったんだよ。僕らをあの頃時代に引き戻すとても象徴的な曲なんだ」
David Bowie – Space Oddity
映画序盤のアポロ11号の記念パレードが行われているシーンでうっすらと流れる名曲がある。
デヴィッド・ボウイの「Space Oddity」だ。
「Space Oddity」ってどんな曲?
1969年11月にリリースされたアルバム『スペイス・オディティ』からの一曲。
1968年に公開されたスタンリー・キューブリックの映画『2001年宇宙の旅』を当時の彼女でバレエ・ダンサーのハーマイオニー・ファーシンゲールと観に行った時にインスパイアされて作った作品。
「Space Oddity」は孤独な男トム少佐の歌である。
宇宙にいるトム少佐と管制塔との交信の様子を描いている内容の歌詞で、トム少佐は無線の故障で宇宙に取り残されてしまうという悲劇を迎えてしまう内容だ。
映画内での意味合い
SPACE ODDITY 45 RELEASED 55 YEARS AGO TODAY
— David Bowie Official (@DavidBowieReal) July 11, 2024
“And the stars look very different today…”
To mark the 55th anniversary of the release of the Space Oddity single, we thought that this post would bear repeating.
Five years ago, In celebration of both Space Oddity’s 50th… pic.twitter.com/1emeiTp6L3
【出典】David Bowie Official (@DavidBowieReal) Xより
映画『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』でインディを演じるハリソン・フォードは80歳を迎えシリーズ最後と言っている。
劇中インディはある意味時代遅れでザ・ビートルズの曲もうるさいと言ったり、
10年以上勤めたニューヨークのハンター大学の教授を定年退職するなど孤独なおじいさん扱いされてしまう。
そしてこの孤独感と「Space Oddity」に登場する孤独な宇宙飛行士トム少佐、1969年のアポロ11号打ち上げの要素をふんだんに含んで2人の人物を反映させているのだ。
そしてどこへ行くのかわからない無限の宇宙へ旅立つトム少佐、
ひょんなことから親友の娘ヘレナとドタバタに巻き込まれて、新たな冒険へ旅立つインディという2人の人物の「旅立ち」という共通点もある。
The Rolling Stones – Sympathy for the Devil
本編では使用されていないが予告編で流れる曲がある。
ザ・ローリング・ストーンズの代表曲「悪魔を憐れむ歌」だ。
「悪魔を憐れむ歌」ってどんな曲?
1968年リリースのアルバム『べガーズ・バンケット』のオープニングを飾った名曲。
サンバ調のパーカッションが印象的でギタリストのキース・リチャーズが提案したそうだ。
多種多様な楽器を演奏し実験的なサウンドを作り上げたザ・ローリング・ストーンズ、これは当時バンドのリーダーであったブライアン・ジョーンズが様々な楽器を積極的に取り込んでいった結果であると言えるだろう。
また冒頭のミック・ジャガーの悪魔の奇声、中盤と後半のキースの鎌で首を狩るようなギター。
我が最高のプレイと自賛するニッキー・ホプキンスのピアノ、ジミー・ミラーの悪魔がささやく様なコーラス。
彼らの化学反応はアメリカン・ルーツ・ミュージックの土着の土臭いサウンドに作り上げた最強の曲である。
そして今まで積み重ねてきた具現化してきた結果、
このアルバム『べガーズ・バンケット』を突破口に、後のアルバム『レット・イット・ブリード』はもっと洗礼されたエネルギッシュなアルバムに仕上がり以降はどんどん飛躍していった。
ジャン・リュック・ゴダール監督の映画『ワン・プラス・ワン』はアルバムの制作過程を未着したドキュメンタリーで完成されるまでに様々なテイクがあるのがうかがえる。
その他ライブ盤でも、パーカッションが少ないバージョンも聞くことができるのにも注目の一曲だ。
歌詞は悪魔が自分の自己紹介を淡々と述べるところから始まり、
時空を越え様々な時代で私(悪魔)は歴史を目撃し魂を狩ってきたという内容の歌が歌われる。
“悪魔への同情をして下さい” と優しく語っているのが恐ろしいよな
ブルースなど黒人音楽に影響を受けているローリング・ストーンズは彼らのカバー曲やオリジナル曲を演奏していたが、
今作のルーツはアフリカからブラジルに来た黒人奴隷たちが始めたサンバに焦点を当てているのも面白く注目するべき点だ。
もともとフォーク調の曲だったらしいよ
確かにアルバムの他の曲はカントリーやフォークっぽさが残っているよね
映画での意味合い
「悪魔を憐れむ歌」は1968年に発表されており、時代を思い浮かばせるために必要な楽曲と言える。
劇中ではビートルズの「Magical Mystery Tour」を使用しシーンの移り変わりと冒険の始まりを表している一方で、
予告編で「悪魔を憐れむ歌」を流すことはインディの生涯を表していると言える。
まさにこの2つの曲は、コインの表と裏の様に重要な楽曲であるだろう。
「悪魔を憐れむ歌」の歌詞は悪魔が自己紹介をし、あらゆる時代で人間の魂を引っこ抜いてきたと優しい口調で語る展開をする。
そして今作がシリーズ最後というインディ・ジョーンズ、今まで冒険してきたことを振り返る集大成的な作品。
「過去を振り返る」という重なり合う点があるのだ。
作品 | 舞台 | お宝 | 敵 | |
1作目 | 『レイダース/失われたアーク』 | 1936年 エジプト | アーク(聖櫃) | ナチスドイツ軍 |
2作目 | 『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』 | 1935年 インド | サンカラストーン | カルト教団 |
3作目 | 『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』 | 1938年 ヨルダン | 聖杯 | ナチスドイツ軍 |
4作目 | 『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』 | 1957年 ペルー | クリスタル・スカル | ソ連KGB |
5作目 | 『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル | 1969年 モロッコ/シチリア島 | アルキメデスのダイヤル | ナチスドイツ軍の残党 |
1作目では1936年を舞台にエジプトへアーク(聖櫃)を探しナチスドイツ軍と争奪戦に、
2作目は1935年インドのカルト教団へ潜入、サンカラストーンを探す冒険へ、
3作目は1938年はヨルダンへ聖杯を探しに、敵は再びナチスドイツ軍
4作目は1957年を舞台にクリスタル・スカル(エイリアンの頭部)の謎を解くためペルーを旅する。敵はソ連KGB。
そして5作目に当たる今作は、1969年を舞台にかつてライバルだった元ナチスの科学者ユルゲン・フォラー(マッツ・ミケルセン)と、アルキメデスのダイヤルをめぐり壮大なの争奪戦をする。
アルキメデスのダイヤルは「アンティティラ島の機械」という実際にあるものがモデルになってるそうだ。
参考:『SCREEN スクリーン 2023年8月号 近代映画社』
そして、ダイアルを使いさらにインディはなななんと…という展開に。
映画『ジュラシック・パーク』で恐竜を見たシーンと同じくらいの多幸感を得られる展開だった
ちなみにマッツ・ミケルセンが演じるユルゲン・フォラーにはモデルがいて、”ヴェルナー・フォン・ブラウン” というロケット研究に従事した人だよ
このようにあらゆる時代に登場し冒険を繰り広げてきたインディと、
「悪魔を憐れむ歌」の悪魔を重ね合わせることができるのだ。
まとめ:『インディ・ジョーンズ』の集大成を見逃すな!
映画内で使用される楽曲は時代を表したり、登場人物に重ね合わせるというテーマに沿った使われ方をしている。
なんとなく聞いていた曲も曲の背景や時代、映画の内容を知れば知るほど深みを増し立体的になり楽しみが増す。
今日流行っている曲、歴史的名曲、映画など独自の視点で解説していくので、記事が役立ち1日の5分でも楽しんでもらえれば最高だ。
そして皆さんの考察、感想、期待、妄想をコメント欄までお聞かせ下されば幸いだ。
このように当ブログでは洋楽の魅力を発信している。
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それでは、良き洋楽ライフを!
See You Next Wednesday